背後姿うしろすがた)” の例文
あしの長いおやじに似た秋彦は、また、鄭重ていちょうに頭を下げた。民さんと村さんは用件の話が済むと、したしい背後姿うしろすがたを見せてもどって行った。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その三品みしなを新聞紙に包んで押収した係官の一行の背後姿うしろすがたを、区長も、青年も土のように血の気をうしなったまま見送っていた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
謙作は背後姿うしろすがたかったが、い女だなと思ってちょっとその容貌きりょうに引きつけられた。と、洋服の男が顔をあげた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かたほそく、片袖かたそでをなよ/\とむねにつけた、風通かぜとほしのみなみけた背後姿うしろすがたの、こしのあたりまでほのかえる、敷居しきゐけた半身はんしんおびかみのみあでやかにくろい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「よし、いい」丹前たんぜんは気がいたように揉あげの背後姿うしろすがたへ眼をやった。「大丈夫だ、うんと飲みな」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
右のむこうの隅には濃い髪を束髪そくはつにした女が錦紗きんしゃらしい羽織はおり背後姿うしろすがたを見せて、前向きに腰をかけていたが、その束髪にしたくしの玉が蛇の眼のように暗い中にちろちろと光って見えた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)