素人屋しろうとや)” の例文
私の下宿は素人屋しろうとやだった。母親一人、息子一人の家庭で、息子は市役所へ出ていた。それに嫁を貰うまで私を置いてくれる。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
浮んで来るとともに、今晩先輩に相談した、女と素人屋しろうとやの二階を借りて同棲しようとしていることが思われて来た。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
素人屋しろうとやによくある例で、我々も食事の時は一同茶の間に出て、食卓を囲んで食ふことになつてゐたが、内儀はその時も成るべく娘には用をさせなかつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
俸給がゆたかでなくって、やむをえず素人屋しろうとやに下宿するくらいの人だからという考えが、それで前かたから奥さんの頭のどこかにはいっていたのでしょう。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちにがほのぼのとけると、あわれな小判売こばんうりの子供こどもは、あるおおきな素人屋しろうとやのきしたつかれてねむっていました。ゆきからだにもあたまにもしろきつけていました。
金銀小判 (新字新仮名) / 小川未明(著)
斎藤は、一年ばかり前から、山の手のある淋しい屋敷町やしきまち素人屋しろうとやに部屋を借りていた。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
出して置くのさ。かたなんて書いたんじゃ信用がつかない。番地丈けにして置けば、堂々たる構えだと思って貰える。僕のを見給え。これで矢っ張り素人屋しろうとやだけれど、然うは見えまい
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
静かな素人屋しろうとやに一人で下宿しているのは、かえってうちを持つ面倒がなくって結構だろうと考え出したのです。それからその駄菓子屋の店に腰を掛けて、上さんに詳しい事を教えてもらいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は日本橋檜物町ひものちょう素人屋しろうとやの二階を借りてんでいる金貸かねかしをしている者のむすめで、神田の実業学校へ通うていた。女はそれ以来金曜日とか土曜日とかのちょっとした時間を利用して遊びに来はじめた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)