糶上せりあが)” の例文
ギックリやりますし、その方は蝦蟇口がまぐちを口に、忍術の一巻ですって、蹴込けこみしゃがんで、頭までかくした赤毛布あかげつとを段々に、仁木弾正にっきだんじよう糶上せりあがった処を
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その中へ、炬燵こたつが化けて歩行あるき出したていに、むっくりと、大きな風呂敷包を背負しょった形が糶上せりあがる。消え残ったあかりの前に、霜に焼けた脚が赤く見える。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壇の上口あがりくち気勢けはいがすると、つぶしの島田が糶上せりあがったように、欄干てすり隠れに、わかいのがそっ覗込のぞきこんで
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この景色に舞台がかわって、雪の下から鴛鴦おしどりの精霊が、鬼火をちらちらと燃しながら、すっと糶上せりあがったようにね、お前さん……唯今の、その二人のおんなが、わっしの目に映りました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外土間に出張った縁台に腰を掛けるのに——市が立つと土足で糶上せりあがるのだからと、お町が手巾ハンケチでよくはたいて、縁台に腰を掛けるのだから、じかに七輪しちりんの方がいい、そちこち、お八つ時分
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すっと陽炎かげろうまつわる形に、その水の増す内が、何とも言えないい心地で、自分の背中か、その小児の脚か、それに連れて雲を踏むらしく糶上せりあがると、土手の上で、——ここが可訝おかしい——足の白い
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
歌舞伎座こびきちょうのすっぽんから糶上せりあがりそうな美しいんだから、驚きましたの何のって、ワッともきゃっともまさかに声を上げはしませんが、一番生命いのちがけで、むっくり起上ると、フイと背後向うしろむきになって
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)