築地塀ついじべい)” の例文
甘酒屋のおじいさんが、赤塗りの荷箱をおっぽりだして、塀のかげへ走りこんだかと思うと、すぐその顔が築地塀ついじべいの上に現われた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三方に築地塀ついじべいを廻らし、南側のほりに沿った一方だけ黒く塗ったさくになっていた。柵の内側は杉の深い林で、その杉林が邸内の半ばを占めている。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ぱッと土を蹴って、片手ささえに、五尺の築地塀ついじべいうえにおどり上がりながら、ふと、足元の門奥に目をおとしたとき!
築地塀ついじべいに似た屋根つきの土のへいをめぐらした広い敷地の中に、うっそうたる大樹に囲まれて、純日本ふうの二階家が、あたりを睥睨へいげいするようにそびえていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その腰壁の下を悠々と通って、ややしばらく行くと中門、そこでまた手間どる狂言は面倒と、隙を見てかたえかえでの木から、ひらりと築地塀ついじべいをおどり越え、奥庭深く入り込んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かっ! という音と、切れて飛ぶ棒の半分が見え、築地塀ついじべいの武者窓の下へ、幹太郎の追い詰められるのが見えた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
広大なる堂宇伽藍がらんは、いまし、迫った落日の赤々とした陽光に照りはえて、伽藍を囲む築地塀ついじべいは、尼僧の清さそのものを物語るかのごとくに白々と連なり、しかも
諸士の出入りする通用門につづく築地塀ついじべいの陰。夕方。杉、などの植込みの根方に、中小姓税所郁之進さいしょいくのしんと、同じく中小姓池田、森の三人が、しゃがんで話しこんでいる。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし堀のほうは築地塀ついじべいがあり、外は高い石垣になっているから、そっちへ舟を着け、塀を乗り越えて出れば、さしたる危険なしに脱出できる成算があった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
へい築地塀ついじべいではなく生けがきで、その生けがきのところに、裏の丘がほとんど肩をすれすれに並べ、もし、院の表へ道ならねど、とがめえられぬ人の世の恋を追う男があって
高い築地塀ついじべいを三方にまわして、森々たる樹立のあいだに、三層楼の附いた御殿造りの屋根が見える。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
対馬守は、いかめしい築地塀ついじべいを打ちにらむようにし乍ら卒然として言った。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
そして千久馬の返辞は待たずに、泉亭の長い築地塀ついじべいに沿って、伊毗川のほうへ大股おおまたに去っていった。
はたし状 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ぐるりと築地塀ついじべいを回って表山門からはいってみると、門には額がない。
雲にかくれたおぼろの月明りで、築地塀ついじべいの延びている道はかなり遠くまで見えるが、人の来るようすはなかった。……ぎいときしる潜り戸の音がした。門内から人が出て来た。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは兵部邸の、築地塀ついじべいかどに待っていたようである。そこで六郎兵衛をやりすごし、間あいを計って跟けて来た。これだけのことが、かなりはっきりと感じられたのである。
一町四方に及ぶ築地塀ついじべい、楼閣を有する邸宅、数寄屋、三棟の土蔵、うまや、家僕長屋、そして贅を尽くした庭園、といったぐあいであるが、人々を驚倒せしめたのはその構えよりも
小高い丘の上にある茂庭家の築地塀ついじべいが、白く、城館のように堂々と眺められた。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)