竿かん)” の例文
行宮あんぐうはなお上にあった。その行宮の南面の廊の角に一竿かんたかく、錦の旗が、大和、山城、河内の山野を望みつつ、へんぽんと山風を呼んでいる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時に九月天高く露清く、山むなしく、月あきらかに、仰いで星斗せいとればみな光大ひかりだい、たまたま人の上にあるがごとし、窓間そうかんたけ数十竿かん、相摩戞まかつして声切々せつせつやまず。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故に、風候水色の好適なる裡に、細緡香餌さいぴんこうじを良竿かんに垂れ、理想の釣法を試むことを得ば、目的こゝに達したるなり。魚の多少と大小は、また何ぞ問ふをもちひん。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
月まさに三竿かん、酒もやがて爛酔に入った頃、主人の永左衛門、改めて膝を直しました。
そこで先生はおりおり一竿かんを肩にして河へつりにゆく、一尾のふなもつれないときには町で魚を買ってそのあぎとをはりにつらぬき揚々ようようとして肩に荷うて帰る、ときにはあじ、ときにはいわし
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
たれか、用のあるらしい者が、一、二度その戸をたたいたりしましたが、ゆうべ夜ふかしをしたせいか、陽が三竿かんに至っても起きるしきが見えません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月まさに三竿かん、酒もやがて爛醉らんすゐに入つた頃、主人の永左衞門、改めて膝を直しました。
枕元で、釘勘らしい声がしたので、次郎がふと眼をさましてみますと、は三竿かん、すでに翌日のひる近い刻限です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成程日はもう三竿かん、明神樣の森の烏も、餌をあさりに出かけて歸つて來る頃です。
左慈は、一竿かんを持って、らんの外へ、糸をたれた。玄武池げんぶちの水は、満々とそよぎ立ち彼の袖がひるがえるたびに、たちまち、大きなすずきが何尾も釣りあげられた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竿かんの列伍は淋しく河内へ落ちて行った。山河は蕭々しょうしょうと敗将の胸へ悲歌を送った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城下外の地方にいる郡奉行こおりぶぎょうや、出役人へは、早馬や、急使が駈け、陽の三竿かんにかかる頃には、一抹の妖雲にも似た昼霞が、刈屋城の本丸を灰色にいて、昂奮した全藩の空気をひとつにつつんでいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清水一学は、今日も黙然と、雲母川堤きららがわづつみから、一竿かんを伸ばしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、一竿かんの白旗が、ひらひら見える地点に集結していた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)