稀〻たまたま)” の例文
ひとり五男の但馬守宗矩むねのりに、伝血の望みはしょくされていたが、それも江戸常住となって、稀〻たまたまの便りが、せめての楽しみであった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大名たちにも構えの高い癖がついているので、稀〻たまたま、宿下がりかお使いで城外へ出ると、やたらに人間どもがいやしく見えてならなかった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀〻たまたま、彼が念頭にない老画師の姿を、おおまだ居たのかと、見かける時は、老画師はいつも画冊と絵筆を手にして、山を写し、渓流けいりゅう見恍みと
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実、彼女が、稀〻たまたまここへ来るのは、阿片を求めに来るのと、男女の不良隊と密談の必要ある場合を出ないようである。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きが長くなったが、私のこの小篇は、そんな社会課題をとり上げたという程な作ではなく、稀〻たまたま手近な書から宋代の緑林挿話の小素材をひろい上げ
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故にひとたび、父なる人が稀〻たまたまのすがたを、そこに見せた夜の奥曲輪というものは、たいへんな賑わいであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが稀〻たまたま、角川書店版の昭和文学全集の「親鸞」の巻末に、ぼくも自分の著者年譜を附けなければならなくなり、初めて自分の六十年を一歳からしるしてみた。
稀〻たまたま、誰でもいいような使命を当てがうと、平気でずぼらをやるし、又忘れッぽい。とても他家へ立つ使者だの、君側の大事な用向などにはれたものではない。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元和以来の武門のしきたりを、真ッ向に信奉して、稀〻たまたまはれの大命拝受に、いよいよ日頃の武門精神のみがきを、このときに示すような、逆な考えと、緊張をもった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いくさ、また戦と、留守がちでござれば、母君にも、間には、おさびしゅうございましょう。お歌は、ちっとは、進みましたかな。舞など、稀〻たまたまには御覧なされまするか」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴顕豪商というと彼女は生れぬまえからの仇敵きゅうてきのように反抗したくなるのである。——奔馬の前の危険な強請ゆすりも、稀〻たまたま興味的にやりたくなる衝動の発作ほっさなのであった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが稀〻たまたま社命で親鸞というような宗教上の偉大な人間像に盲目的にぶつかって、そんな仕事をするハメになったというのも僕には大きな慈悲に出会ったようなものです。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀〻たまたま、それが父の気もちにさわったらしく「何だ、その大面おおづらは。わずかばかりの給料を取って、働くのを鼻にかけるのか。人間、働くのは当りまえだ。働くのが嫌なら、やめちまえっ」
その杜鵑管という笛は、先おととしの事、まだ彼女の父が壮健で、近国の乱も小康を得ていた折、京都みやこ上洛のぼって、清水へ詣った時に、稀〻たまたま一度父の手に入ったことのある品なのである。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時には、木曾川の国境へ遠征し、稀〻たまたま、帰って来ても城内の寝泊りが多いし、まだ二十歳にもならない新妻は、常に、陰膳かげぜんばかり供えて、独りで喰べ、独りで縫い、独りで家事を見ていた。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが稀〻たまたまあの終戦時の社会混乱に出会って、事々の時相をみるにつけ、自分を単位に、ふと歴史の復元化がこころみられたことなんです。それが「新・平家物語」を成す動機といえば動機です。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀〻たまたま野をよぎるものがあれば、それは鳥影ぐらいなもの……。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀〻たまたま征矢そやのごとく水をかすめるのは、羽の青い小禽ことりだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀〻たまたま、思い出されても
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)