禿)” の例文
京屋の家族は、せがれの善太郎たった一人だけ。これは人間がだいぶ甘く、二十二にもなっているのに、禿ほうきほどの役にも立ちません。
枝の禿びた接骨気にわとこの木を目あてにしてその傍からおりていることもたしかに判っているので、他へ往っている気づかいはないのであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小さな木祠がまつってあって、扉を開けて見ると、穂高神社奉遷座云々と、禿び筆で書いた木札などが、散乱している。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
父親がきの毒で、一時は、書くのを止めようかとも思ったけれ共、さりとて、黙ったまますむ事でもないので、ロール手紙に禿びた筆で、不様な手紙を書き始めた。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
飛白かすりの筒袖羽織、禿びた薩摩下駄さつまげた鬚髯ひげもじゃ/\の彼が風采ふうさいと、煤竹すすたけ色の被布を着て痛そうにくつ穿いて居る白粉気も何もない女の容子ようすを、胡散うさんくさそうにじろじろ見て居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふで禿びて返り咲くべき花もなし
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
少女は紫の矢絣やがすりたもとをひるがえしてさきに立って往った。門の中には禿びて枝の踊っているような松の老木があり、椿つばきの木があり、嫩葉わかばの間から実ののぞいている梅の木があって門の中を覆うていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その草原の中央なかほどの枝の禿びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があったが、それは枌葺そぎふきの屋根も朽ちて、木連格子の木目も瓦かなんぞのように黒ずんでいた。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)