磊々らいらい)” の例文
飛騨路というのは峰の小屋から路を右手にとり、二の池の岸をめぐって磊々らいらいたる小石の中を下って行くので、みちというべき途はない。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
だが、ここの紅葉は、色紙や短冊などに乗る程度のものではなく、何か天地間の物である。豪放、磊々らいらい、雄大、何をもって来たって追っつかない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
に見渡す限り磊々らいらい塁々たる石塊の山野のみで、聞ゆるものは鳥の鳴くすらなく満目ただ荒涼、宛然さながら話しに聞いている黄泉よみの国を目のあたり見る心地である。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
いまわという時、立騰たちあがる地獄の黒煙くろけむりが、線香の脈となって、磊々らいらいたる熔岩がもぐさの形に変じた、といいます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けだしその論や卓々、その文や磊々らいらい、余をしてしばしば巻をおおい覚えず快哉かいさいと呼ばしめたりき。
将来の日本:01 三版序 (新字新仮名) / 新島襄(著)
けだしその論や卓々、その文や磊々らいらい、余をしてしばしば巻をおおい覚えず快哉かいさいと呼ばしめたりき。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
石の断片ばかり磊々らいらいとして、小さくうずたかくなっている、ここは槍ヶ岳へも、岳川岳から岩壁伝いに乗鞍岳へも、また奥穂高へも、行かれるところで、三方への追分路である
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
殊に、河原に火山岩が磊々らいらいとしている川の鮎は、まことに品質がよくないのである。
香魚と水質 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
磊々らいらいたる大岩石の堆積、倒木のロウ・ハードル、見上げるような滝となって落ち込む威圧的な支流、コマツ沢の合流点付近では、本支流とも、三つのすさんだ滝となって相剋そうこくしている。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
皆不折が書いたので水彩の方は富士の六合目で磊々らいらいたる赭土塊あかつちくれを踏んで向うへ行く人物もある。油画は御茶の水の写生、あまり名画とは見えぬようである。不折ほど熱心な画家はない。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今日の北湖ほくこ先生磊々らいらいとして東西南北を圧倒致し候には驚入おどろきいり候。欣羨きんせん々々。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
やっと、太古の森林を出たと思うと、あ——と仰がれる絶壁だし、めぐれば、瀑布のしぶきに吹きとばされ、じれば、磊々らいらいの奇岩巨石にのぞき下ろされる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畷道あぜみちを桂川の上流に辿ると、迫る処怪石かいせき巨巌きょがん磊々らいらいたるはもとより古木大樹千年古き、楠槐なんかいの幹も根もそのまま大巌に化したようなのが纍々と立聳たちそびえて、たちまち石門砦高く、無斎式、不精進の
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
磊々らいらいと重なっている岩のあいだを、彼は、原始人のように、這いすすんで行くのだった。おのを入れたためしのない太古の渓谷林には、音のしない滝がかかっていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翠屏山すいへいざんは、薊州東門のそと、郊外二十里のところ。全山は墓地であり、たけなす草、かば白楊はくようの茂み、道は磊々らいらいの石コロで、途中には寺も庵もなく、ただ山上に荒れ朽ちた岳廟がくびょうがあると聞くばかり……。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)