みど)” の例文
右手の窓の外に、高いもみの木が半分見えて後ろははるかの空の国に入る。左手のみどりの窓掛けをれて、澄み切った秋の日がななめに白い壁を明らかに照らす。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ベラージオの町は、岬のとっさきに建てられて、坂路の石を敷きつめた小路に沿うた白壁の家が、みどりの水と、蒼空と、それを囲む遠山の、スウィスの雪に対いあう。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
裏の窓より見渡せば見ゆるものは茂る葉の木株、みどりなる野原、及びその間に点綴てんてつする勾配こうばいの急なる赤き屋根のみ。西風の吹くこの頃のながめはいと晴れやかに心地よし。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乱れ起る岩石を左右にめぐる流は、いだくがごとくそと割れて、半ばみどりを透明に含む光琳波こうりんなみが、早蕨さわらびに似たる曲線をえがいて巌角いわかどをゆるりと越す。河はようやく京に近くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その岩の上に一人の女が、まばゆしと見ゆるまでに紅なる衣を着て、知らぬ世の楽器をくともなしに弾いている。みどり積む水が肌にむ寒き色の中に、この女の影をさかしまにひたす。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
深いみどりの上へ薄いセピヤを流した空のなかに、はっきりせぬとびが一羽舞っている。かりはまだ渡って来ぬ。むこうからはかま股立ももだちを取った小供が唱歌をうたいながら愉快そうにあるいて来た。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)