目送みおく)” の例文
ト言ったのが文三への挨拶で、昇はそのまま起上たちあがッて二階を降りて往った。跡を目送みおくりながら文三が、さもさも苦々しそうに口のうち
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
通学の道筋に当る町の若い女は眉山の往帰いきかえりをたのしみにして、目牽めひき袖引き目送みおくって人知れずこがれていたものも少なくなかったという評判だった。
互いにれしとも憐れとも思わぬようなり、紀州はそのまま行き過ぎて後振向きもせず、源叔父はその後影うしろかげかどをめぐりて見えずなるまで目送みおくりつ
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
貞之進はたましいを赤の絞り放しのしょい揚にすがらせ、ぼんやり後影を目送みおくって口惜くやしいような気がする間に、あとから来た段通織の下着もまた起って行ったので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
またひとしきり煙に和して勢いよく立ち上る火花の行くえを目送みおくれば、大檣たいしょうの上高く星を散らせる秋の夜の空はたたえて、月に淡き銀河一道、微茫びぼうとして白く海より海に流れ入る。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
自己おのが云う事だけを饒舌しゃべり立てて、人の挨拶あいさつは耳にも懸けず急歩あしばやに通用門の方へと行く。その後姿を目送みおくりて文三が肚のうち
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、病み衰えた顔に淋しい微笑を浮べ、梶棒かじぼうの上ると共に互に黙礼をかわしてわかれた。暫らくは涙ぐましく俥の跡を目送みおくったが、これが紅葉と私との最後の憶出おもいでの深い会見であった。
にじむも構わずさら/\と手紙をしたため、これを春泉へ持たせてやり、小歌に逢って返詞をきいて来てくれと畳へ投出し、婢の後影を目送みおくって自分で銚子へ手を懸けたが、貞之進が生れてから
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
恨めしそうに跡を目送みおくッて文三は暫らく立在たたずんでいたが、やがて二階へ上ッて来て、まず手探りで洋燈ランプを点じて机辺つくえのほとり蹲踞そんこしてから、さて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)