瘡蓋かさぶた)” の例文
水泳などに行って友だちや先輩の背中に妙な斑紋はんもんが規則正しく並んでいて、どうかするとその内の一つ二つの瘡蓋かさぶたがはがれて大きな穴が明き
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
見るも無惨な凸凹でこぼこ瘡蓋かさぶたになつた私の顔に姉は膏薬かうやくを塗つてくれながらへんな苦が笑ひをした。私は鏡を見て明け暮れ歎き悲しんだのであつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
包んで母と伯母とがかはるがはる瘡蓋かさぶたのうへをたたいてくれると小鼻をひこつかせてさも気もちよささうにしたといふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
それに大之丞の次の弟、彦之助が京に上ってから胎毒を発し、頭が瘡蓋かさぶただらけでお釈迦様のようになり、膿が流れ、その介抱に皆力を尽していた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
その絶頂には小さな丸髷まるまげが一つ乗っているのでした、その髪の下は完全な禿頭はげあたまで、その禿頭にはくろんぼがベタベタと瘡蓋かさぶたの如く一面に塗られていて
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
肘の辺から指先まで、ベッタリ瘡蓋かさぶたが飛び散っていた。枯木を蔽うている苔のようであった。中指の附け根の瘡蓋の上に、モジャモジャと一房の毛があった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瘡蓋かさぶたも体じゅうほとんがれて、わずかに足のうらに少し残っているだけである、と云うのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
破れた着物の下には襯衣シヤツがあるが身体中の瘡蓋かさぶたのつぶれから出る血やうみにところどころ堅く皮膚にくつついてゐた、銅銭の紙包と一しよにボール紙を持つてゐて、——それには
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
白堊姿のスラリ高く清げであつた小學校が、たとへば、白瓜か南瓜になつたやうに、脊低せツぴくの厭やなものになつて、杉の燒板で一面に背中を張られたのが、瘡蓋かさぶたみたいだと思つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
すると青緑色のもや立罩たちこめた薄暗い光線の中に、瘡蓋かさぶただらけの醜い背中が露出された。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
背中に立てられた蝋燭がゆらめくたびにぽたぽたと蝋涙を垂らして、それが醜い瘡蓋かさぶたのように肌にこびりついていた。女は苦しそうな息を吐きながら、ときどき頬肉をぴくりぴくり動かした。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
月は県知事のやうにぽかんとした顔をして空をうろついてゐた。比良ひらに雪が降つたといふ記事を新聞で見て、慌てて汽車で駈けつけてみると、山には瘡蓋かさぶたのやうな雪がちよつぴり残つてゐた。
古壁に、漲る瘡蓋かさぶた模様のやうに、前頭部には
病状は順調な経過を辿たどり、一週間後には熱もようやく下って行ったが、それでもこの病気は、体じゅうの紅いぶつぶつがせて、瘡蓋かさぶたが落ちるようになり、全身が一と皮けてから全快するので
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)