いたま)” の例文
私は予期していたことにつかったような気がして、いたましく思い、どうぞ無事でいてくれればよいがと、心に念じていました。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
という言葉の節々、その声音こわね、其眼元、其顔色はおおいなる秘密、いたましい秘密を包んでるように思われた。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
る夏の夕方ゆうかたに、雑草の多い古池のほとりで、蛇と蛙のいたましく噛み合っている有様ありさまを見て、善悪の判断さえつかない幼心おさなごころに、早くも神の慈悲心を疑った……と読んで行くうち
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
小母様、又、前後しますが、今日、三十日の午後十時は、私、とてもいたましい十時だったのです。そのことは又、だからと云って、これを書きつづけるのに、気持が変ったということはありません。
幾度目かの最期 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
下に置き小娘に向ひかくひろき家に唯一人立ちはたらき給ふは昔しの餘波なごりいたましく思ふなり殊に病人の有る樣子に見受みうけしが其方そなたの父なるか母はいまさずや其方名は何んと申す今宵限こよひかぎりの宿ながら聞まほしと云ひければ娘はたちまなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
乃ち皺枯しはがれた父の口小言、第一に目にしたものは、何時もたすきを外した事のない母の姿で、無邪気な幼心に、父と云ふものは恐いもの、母と云ふものはいたましいものだと云ふ考へが
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)