おろそか)” の例文
衣服などさる可く、程を守りたるが奥幽おくゆかしくて、誰とも知らねどさすがにおろそかならず覚えて、彼は早くもこのまらうどの席を設けて待てるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
どんなに平凡に見えても、誰にでもすぐ出来る技ではありません。それに仕事をおろそかにしないのは、職人の気質でさえありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
われわれの詩が、当然未来を対象とせなければならない所に、重点を置いて考えれば、詩に於ては、未来語の開拓発見をおろそかにしてはならない。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
容貌ようぼうの醜なる点、性質の美な点を認めた父君は、夫婦生活などはおろそかにして、妻としての待遇にできるかぎりの好意を尽くしていられるらしい。
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
元姫君もとひめぎみと云われた宗教むねのりの内室さえ、武芸の道にはあかるかった。まして宗教のたしなみに、おろそかな所などのあるべき筈はない。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自然学校の方はおろそかになる。校長林氏が厭な顔をする。で、佐藤は意を決し代用教員を辞してしまった。
著者は思ふに十九世紀(享和きょうわ文化以降)の浮世絵のみを知るものと覚しく、専ら十九世紀を主としてかへつて十八世紀(元禄げんろく末期より寛政の終に至る)をおろそかにする所あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
普通人の自己の身體に對する注意が甚だおろそかであるのは實に愚な事である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
喰う事が出来ないような者がやりますと、自然商売がおろそかになります。
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
改めて穿鑿せんさくもせられで、やがては、暖簾のれんを分けてきつとしたる後見うしろみは為てくれんと、鰐淵は常におろそかならず彼が身をおもひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それに、富山からはつての懇望で、無理に一人娘を貰ふと云ふ事であれば、息子夫婦は鴫沢の子同様に、富山も鴫沢も一家いつけのつもりで、決して鴫沢家をおろそかにはまい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)