甲板デツキ)” の例文
今日けふ牧野事務員に託してマルセイユ迄く仲間だけ甲板デツキ用のたうの寝椅子を買つて貰つたが、一個一円五十銭づつとはやすい事である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「永久に忘れはしない」と、甲板デツキに見送られる人人が言ふ。だが兩方とも、意識の潛在する心の影では、忘却されることの悦びを知つてゐるのだ。
宿命 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
かれひとうなづきつゝ、從容しようようとして立上たちあがり、甲板デツキ欄干てすりりて、ひしめへる乘客等じようかくらかへりみて
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夫人おくさん、すこし、甲板デツキうへでも逍遙さんぽしてませうか。』とわたくし二人ふたりいざなつた。
船の進行にれて可愛かあいい十三四の二人の娘が緋の色のを円く揚げながら、母親らしい女の弾くマンドリンに合せてマルセイユウズの曲を舞つて甲板デツキの上の旅客りよかくに銭を乞うて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
甲板デツキ片隅かたすみ寂寞じやくまくとして、死灰しくわいごと趺坐ふざせり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この港では釣が出来ると云ふので甲板デツキの上から牛肉を餌にして糸を垂れる連中れんぢゆうがある。三浦は黒鯛に似た形の、暗紫色あんししよくに黄味を帯びた二尺ばかりの無名ぎよや「小判かぶり」を釣つて大得意である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)