田舎町いなかまち)” の例文
旧字:田舍町
四面山で囲まれた小さな田舎町いなかまち、その中央にある大きな白壁造、そこに郵便脚夫が配達すると、店に居た男がそれを奥へ持って行く。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まことにつまらない田舎町いなかまちで、景色も美しくはありませんけれど、それでも私たちに久しぶりに会いに来て下さいまし。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ちいさな、田舎町いなかまちは、おなじように、はやくから、どこのみせめてしまいました。正吉しょうきちは、平常ふだんあるれていましたので、一筋ひとすじみちをたどってゆきました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分は所用あって田舎町いなかまちの雑貨店に立ち寄っていると、一人の百姓娘が美顔用の化粧品を買いに来た。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
わたしはこう云う時には無気味になり、早速どこかへ散歩へ出ることにしていた。しかし散歩に出ると云っても、下宿の裏の土手伝いに寺の多い田舎町いなかまちへ出るだけだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを渡りてまた林の間を行けばたちまち町の中ほどにず、こは都にて開かるる洋画展覧会などの出品のうちにてよく見受くる田舎町いなかまちの一つなれば、茅屋くさや瓦屋かわらやと打ちまじりたる
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
耳たぶがないばかりに、あの田舎町いなかまちおんなは、どのような暗いいやな思いを味わって来たことであろう。あの夜、あの妓は、私の胸に顔を埋めたまま、とぎれとぎれ身の上話を語った。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そこには美しい森や、小高いおかや、赤いかべをめぐらした古いお屋敷やしきなどがあって、外堀そとぼりには白鳥が泳いでいます。そして、りんご園のあいだに教会の立っている小さな田舎町いなかまちがあります。
わたくしの家では、父が南国の田舎町いなかまちで、ささやかな私立病院を営んでゐた。
最も早熟な一例 (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
しかし勿論そんな誘惑は抑えなければならないのに違いなかった。わたしはちょうど頭だけ歩いているように感じながら、土手伝いにある見すぼらしい田舎町いなかまちりて行った。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の郷里なる田舎町いなかまちのカーコゥディーに引っ込んで送り得た約六年の歳月は、外から見ては誠に平静無事な六年であったが、彼自身にとっては実に非常なる大奮闘の時代であって
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「ある小さい田舎町いなかまちでのことでした」と、月が言いました。