いしだたみ)” の例文
この芝生の上にやはり乳白な大理石のいしだたみを敷いて、両側におばしまを立てた美しい遊歩道がうねうねと曲折しながら続いているのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三左衛門はみちに注意した。岩がいしだたみを敷いたようになっていて前岸むこうわたるにはぞうさもなかった。二人はその岩を伝って往った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして朝は、雪のつもつたいしだたみの上に冷めたいむくろをさらすにしても。女に会ひたい思ひよりも、女を探す決意の方が、遥かに激しくなるのであつた。
玉のいしだたみ暖かにして、落花自ずから繽紛ひんぷんたり、朱楼紫殿玉の欄干こがねこじりにししろがねを柱とせり、その壮観奇麗いまだかつて目にも見ず、耳にも聞かざりしところなり。
既に木乃伊ミイラにされたダメス王自身でさえも、一平民と同様に法廷のいしだたみにひれ伏した位でありました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
矢っ張、田代が、長命寺の境内のいしだたみのうえに立ってそういったように。——が、田代の場合のは、あながちそれを田代の場合に限らない、小倉がいっても三浦がいってもいゝ台詞せりふだった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
いしだたみのようになっているところの籐椅子で涼もうとしていたら、細竹が繁り放題な庭の隅から、大きな茶色の犬が一匹首から荒繩の切れっぱしをたらしてそれを地べたへ引ずりながら、のそり
犬三態 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「床のいしだたみは大理石とか、模様の市松も精巧なもので」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僧遠く一葉しにけりいしだたみ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
彼は凍つたいしだたみの上へ坐るやうに腰をおろした。さうしてそこへうづくまつた。泣いてゐたのかも知れなかつた。長いあひだ、微動する気配もなかつた。
蒼茫夢 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
何百年をへたとも知れぬ磨滅した、いしだたみや、青苔の生えた石段の向うに、例の仁王門がすっくと、そびえ立っています。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
殿下に手を執られて、いしだたみを踏んでしっとりと露を帯びた、芝生へ降り立った。ぶなの大木が鬱蒼こんもりと枝葉を繁らせて、葉陰に二、三脚のベンチが置かれてある。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのはずみに子供のように泣きだしていた。痴川は伊豆を捩伏ねじふせた。痴川は泣きじゃくり乍らいしだたみへごしごし伊豆の頭を圧しつけ、口汚くののしったり殴ったりした。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
霙がいしだたみをたたいてゐる。雨がふる。そして吹雪の一日もあつた。野々宮は由子の住む砂丘の麓の街の方へ、なんど歩きはじめたか知れなかつた。みれんであつた。
その階段から我々の佇んでいる道のべまで一面に広い乳白のいしだたみが敷き詰められて、中空に参差しんしし交錯した橄欖樹が、折からのかげった陽の光を受けて、ほのかに影を甃の上に落している平和さ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
痴川は泣きじやくりながらいしだたみへごしごし伊豆の頭を圧しつけ、口汚く罵つたり殴つたりした。
小さな部屋 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
僕よりも博士の方がデングリ返つて逆立ちを打ちシルクハットをいしだたみの上へ叩き落してしまつたが、四つん這ひに手をついて其れを拾ふ瞬間にも股の陰から僕の隙を鋭くヂイッと窺ひ
霓博士の廃頽 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
灯もそれにみえ、闇も亦、そして鋪道のいしだたみのほのかな照りかへしもそれに見える思ひがした。そして由子の思ひ出がそれに見えないこともなかつた。この日はこれでいいのだと彼は思つた。
それは毎晩のことだつた、気のせいか、多少は音を憚かる跫音あしおとが、しかしかつかつといしだたみを鳴らしながら、山門を潜つて龍然の書院へ消え去るが、それは夜毎にここへ通ふ龍然の情婦であつた。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
私は別に黄檗山万福寺を訪ふたびにその材木やいしだたみや壁に隠元の血の香をかいでゐるわけではありません。むしろ直接の現実としては殆んどまつたくそのやうなことがないと言はねばならないのです。
女占師の前にて (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)