ぺら)” の例文
たなの上から、うすぺらな赤い石鹸を取りろして、水のなかにちょっとひたしたと思ったら、それなり余の顔をまんべんなく一応撫で廻わした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひいらぎの葉のやうにうすぺらで、そして又柊の葉のやうに触つた人を刺さないでは置かない雑誌だが、まちへ出す数もごく少いので知らぬ人が多いやうだ。
しかし、今から思ふと、いくら呑気な大正時代でも、あんな粗末な体裁のわるいうすぺらな雑誌が、数多あまたの名のある雑誌がならんでゐる店頭で、目につく筈がない。
と、下宿を出る時、手織木綿の風呂敷を用意までして来てゐたので、うすぺらな小切手を見ると変な顔をした。
よく云えば執着がなくて、心機しんきがむやみに転ずるのだろうが、これを俗語に翻訳してやさしく云えば奥行のない、うすぺらの、はなぱりだけ強いだだっ子である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は急に陰気になって下へさがる、とうてい交際つきあいはできないんだと思うと、背中と胸の厚さがしゅうと減って、臓腑ぞうふうすぺらな一枚の紙のようにしつけられる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たまに相手が鳥の羽のやうにうすぺらな事でも言ひ出すと、象山は直ぐと懐中ふところへ手を突つ込んで
これはいずれも金盥をしつぶしてうすぺらにしたようなものを両手に一枚ずつ持っている。ははあ、あれを叩くんだと思う拍子に、二人は両手をじゃじゃんと打ち合わした。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家賃は安いがそこは苦沙弥くしゃみ先生である。っちゃんや次郎ちゃんなどと号する、いわゆるちゃん付きの連中と、薄っぺらな垣一重を隔てて御隣り同志の親密なる交際は結んでおらぬ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)