為損しそん)” の例文
旧字:爲損
いざと云ふ場で貴方の腕が鈍つても、決して為損しそんじの無いやうに、私刃物きれものをお貸し申しませう。さあ、間さん、これをお持ち遊ばせ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてもし、為損しそんじれば、男として腹を切らなければならないから——武家奉公というものがこんなものならめたほうがいい。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから刀を座右に置いて、両手を張って、「介錯頼む」と叫んだ。介錯人落合は為損しそんじて、七太刀目に首を墜した。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
武士は初太刀を為損しそんじて心いささか周章あわてたと見え備えも直さず第二の太刀をがず払わず突いて出た。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三「いさゝか待ち給え、いては事を為損しそんずるから、宜しく精神たましい臍下丹田さいかたんでんに納めて以て、即ち貴方ようく脳膸をおさめずんばあるべからず、怒然どぜんとして心を静め給え」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口上は狼狽ろうばいして走り寄りぬ。見物はその為損しそんじをどっとはやしぬ。太夫は受けめたる扇を手にしたるまま、そのひとみをなお外の方に凝らしつつ、つかつかと土間に下りたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでお父さんが夏中旅行をしたら宜かろう、乃公が連れて行くと申出た。至極結構な思付だと言って乃公が賛成したけれど、賛成の為損しそんをした。お歌さんと乃公が留守居をするのだそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼奴等かやつらも、為損しそんじたらば、内匠頭の舎弟大学がどうなるか、浅野一族の芸州や土佐などにも、何ういうるいを及ぼすかくらいは、考えておる筈じゃ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若し二人で襲撃して為損しそんじてはならない。そこで内密に京都に出てゐた処士の間に物色して、四人の同志を得た。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
足手纒あしてまといだ。それにあなたは、今夜の大将だから、これにいて、吉左右きっそうをお待ちくだされば、それでよい。決して、あなたの御使命を為損しそんじるようなことはせぬ
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
為損しそんじたら、あれ程、諄々じゅんじゅんと書状を以て、われわれに苦言をよこしている大石殿を初め、国許組に、笑いをうけるばかりか、大石殿の云っている通り、天下の笑われもの
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さればと云って、小人数にて、吉良へ斬り入りました所で、万が一、為損しそんじでも致しては、それこそ、末代までの不覚、赤穂の血迷い者がと、よい物笑いにもされましょう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)