みお)” の例文
この二つの川はともにこれという源頭もなく、山野の落水を集めた川で、川というよりもむしろ沼地のみおである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「だからわたしが断っておいたじゃないか。——あの情夫いろは、みおの伝兵衛という大泥棒なのだよ」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とろりとして油のような水の面には、ほぐれ落ちたほうや鱗片の類が、時には何かの花弁や青い葉なども交って、みお筋を後からも後からもと列をなして浮いて流れて来る。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そして不思議に二年の半ばをすぎたいまは、男の呼吸いきづかいがしだいに筒井の身のまわりから、みおがしずまるように遠退とおのきつつあった。そしてこれはせんないことだった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
遠くの沖には彼方かなた此方こなたみお粗朶そだ突立つったっているが、これさえ岸より眺むれば塵芥ちりあくたかと思われ
おやおや、弁天様のお宮の屋根が蘆の穂のスレスレに隠れて、あの松林よりもみおの棒杭の方が高く見えますな。おや川尻は、さすがに浪が荒い、上総かずさの山の頂きを見せつ隠しつは妙々。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
読み終つた時にこの手紙を受とるといふ単純な美しい処女のおみおさんを想つた。真面目に、そして鋭敏な処女の感情の動揺に周到な注意を払つて書いてある点など殊にうれしく読まれた。
寄贈書籍紹介 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
しかし彼は暴力のみおの中に巻き込まれ、反抗した労働軍のあとにつづいていた。
スクリュウに捲き上げられ沸騰ふっとうし飛散する騒騒そうそう迸沫ほうまつは、海水の黒の中で、鷲のように鮮やかに感ぜられ、ひろいみおは、大きい螺旋ぜんまいがはじけたように、幾重にも細かい柔軟の波線をひろげている。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鷹狩の連中は、曠野あらのの、塚のしるしの松の根に、みおに寄ったふなのように、うようよたかって、あぶあぶして、あやい笠が泳ぐやら、陣羽織が流れるやら。大小をさしたものが、ちっとは雨にも濡れたがい。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おまけにみおに流されたら、十中八九は助からないんだよ。」
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「おみおちゃんじゃないか——そんなものを見ちゃならねえ」
今の本名もツクツクシだが、このツクシにはもはや「継ぐ」という意味はなく、みおしるしのミオツクシなどと同じに、土に突立てた榜杭ぼうぐいのことに解しているらしい。
大泥棒のみおひもだという事がお白洲しらすで知れたからで、伝兵衛のお仕置は、獄門と極ったらしいが、どうしても、あの妓はそれを助けたいというので、お上の沙汰さたも金次第だから
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ヘエ、じゃああの金で、みおの伝兵衛とかいう泥棒の男の生命いのちが助かるんですか」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)