潰瘍かいよう)” の例文
君には解るまいが、この病気を押していると、きっと潰瘍かいようになるんだ。それが危険だから僕はこうじっとして氷嚢をせているんだ。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いや大して沢山はない。斑紋はんもん癩に天疱瘡てんほうそう、断節癩に麻痺癩がある。丘疹きゅうしん癩に眼球ろう、獅子癩に潰瘍かいよう癩、だがおおかたは混合する」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
医者は胃に潰瘍かいようが出来たという診たてで、そのまま九月まで寝とおした。この期間ずっと、伊兵衛の世話は女中のおたみが独り占めでやった。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
またいつであったか一度は潰瘍かいようの出血らしいものがあったという話を聞いているから、この病気のためもあったに相違ない。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
無論彼が白状せずともこのラジウムの力で、彼の身体の上に遠からずして潰瘍かいようが現われるだろうことを私は初手しょてから勘定に入れていたのだった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『嫌悪感——というもんは非道ひどいもんだな、鱗粉が触っただけで、皮膚が潰瘍かいようするばかりか、心臓麻痺まで起すんですね』
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
彼はそれらを笑っていた。懐疑主義、この知力のひからびた潰瘍かいようは、彼の精神の中に完全な観念を一つも残さなかった。彼は皮肉とともに生きていた。
幽門の潰瘍かいよう風のものであったと見え、まさ子は殆ど医者にかからず、忍耐と天然の力をたのみに癒した。自分の体は自分が一番よく知っている、そのように今度も云った。
白い蚊帳 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
思うに、もうその頃、潰瘍かいようがんになりかけていたのだろう。かかりつけの小宮博士は「あなたが酒をやめないなら、私は医師として良心が果せないからもうお宅へは来ない」
頬には、刀傷や、異様な赤い筋などで、皺が無数にたたまれているばかりでなく、兎唇みつくち瘰癧るいれき、その他いろいろ下等な潰瘍かいようの跡が、くびから上をめまぐるしく埋めているのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
片眼を残して顔半分潰瘍かいようし去った埃及エジプト人が、何かを売りつけようとして馬車を離れない。
「いや、よくわかりました。無論十二指腸の潰瘍かいようです。が、ただいま拝見した所じゃ、腹膜炎を起していますな。何しろこう下腹したはらが押し上げられるように痛いと云うんですから——」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
胃腸の潰瘍かいようでもあるまい、がんでもあるまいなどと、しきりに病状を案じているばかりでなく、もしトルストイに死なれたら自分の生活には大きな穴が明くだろう、自分は不信心者だが
その上できるだけ病人に営養を与えて、体力の回復の方から、潰瘍かいようの出血を抑えつけるという療治法を受けつつあった際だから、否応いやおうなしに飲んだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隠語から顔をそむける思想家があるとすれば、それは潰瘍かいよういぼなどから顔をそむける外科医のごときものである。
屍体は即日解剖に附せられたが、この男の死因は主として飢餓きがによるものと判明した。なお屍体の特徴として、左肋骨ろっこつの下に、いちじるしい潰瘍かいようの存することを発見した。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「やっぱり十二指腸の潰瘍かいようだそうだ。——心配はなかろうって云うんだが。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
われわれはそれを排斥したのであるが、本当に生きてた異常な一典型タイプのうちにパリーは、ギリシャの赤裸とヘブライの潰瘍かいようとガスコーニュの悪謔あくぎゃくとを結合している。
さいが杉本さんに、これでも元のようになるでしょうかと聞く声が耳にった。さよう潰瘍かいようではこれまで随分多量の血をめた事もありますが……と云う杉本さんの返事が聞えた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして素裸にすると全身をあらためた。そのときあの左肋骨ろっこつ下の潰瘍かいようを発見したのだった。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「この二三日悪くってね。——十二指腸の潰瘍かいようなんだそうだ。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
社会の定命の下にも人類の不滅が感ぜられる。噴火口の傷口や硫気口の湿疹しっしんなどを所々に有するとも、潰瘍かいようして膿液のうえきをほとばしらす火山があろうとも、地球は死滅しない。
潰瘍かいようはげしいんだ。血をくんだ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
潰瘍かいようになると危険でしょうか」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)