演繹えんえき)” の例文
文化批評という言葉は、響きが好いために誰にでも共鳴せられるが、今日まで行われているものは主として演繹えんえき的のものであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これを一つの working hypothesis として見た時には、そこからいろいろな蓋然的がいぜんてきな結果が演繹えんえきされる。
笑い (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
前提から演繹えんえきしてゆくところは理論的だし鋭敏だ。けれども、その前提が、少なくとも二つの点で、不完全な観察をもとにしているんでね。
「ところが先生の方では、頭から僕にそれだけの責任があるかのごとく見傚みなしてしまって、そうして万事をそれから演繹えんえきしてくるんだろう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逍遙子は演繹えんえき評を嫌ひて、歸納評を取り、理想標準をなげうたむとする人なり。然れども子も亦我を立てゝ人の著作を評する上は、絶て標準なきことあたはじ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
帰納きのう演繹えんえきとの論鋒を逆につかったものとして見れば、もう少し希望を残して聞いていないわけにはゆきません。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
物の真相が即ち善である、物の真相を知れば自ら何を為さねばならぬかがあきらかとなる、我々の義務は幾何学的真理の如く演繹えんえきしうる者であると考えている。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
演繹えんえき的に、それを証明するために公文書や新聞報道をえらびだしたり組みあわせたりしていることがわかる。
清水幾太郎さんへの手紙 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
分析するクラウゼウィッツ観察法よりも、ジョミニーの演繹えんえき法、厳密なる形式的方法を絶対的に好んでいる
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
余が議論の原理は、泰西たいせい諸学士の思想より脱胎だったいし来たるもの少なからずといえども、これを事実に適用して演繹えんえきするに至りては余まったくその責めに任ぜざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
で、私はそれ等から演繹えんえきして、あの惨劇は、十二時前後に、行われたものなりと断定するのです。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
女院と法皇の関係も、侍者とのあいだも、仏者的口吻こうふんの聖教そのまま、つまり原作者の該博がいはくな仏典の演繹えんえきと、長恨歌ちょうごんか左伝春秋さでんしゅんじゅうなどに影響された文体そのもので終わっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは帰納と見せかけた演繹えんえき論だと評するかも知れぬが、予はひたすらに帰納をくりかえすことをもって史家の任務の第一義だとは考えておらぬのであるから、かかる批評はあまり苦にならぬ。
一つの主張から演繹えんえきせずに、無数の事実から帰納する、——それが時務を知るのである。時務を知った後に、計画を定める、——時にしたがって、宜しきを制すとは、結局この意味に外ならない。……
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
是から演繹えんえきして「まゝし翁」を描くことが出来るかも知れぬ。書くとすれば喜劇が出来るだろう。静かななぎだ、冷えはするが天地は静まりきっている。地の上に恵みあれ。(二五八八、一二、二八)
遊戯的な機知の発露や理知の抽象的な演繹えんえきなどが、あなたを誘惑しているようです。それはちょうど、わたしが軍事に関して判断しうる限りでは、オーストリアの軍事会議ホフ・クリーグスラートにそっくりそのままですな。
ただこれだけの断片から彼の文化観を演繹えんえきするのは早計であろうが、少なくも彼が「石炭文明」の無条件な謳歌者でない事だけは想像される。
アインシュタイン (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
湯を立てて貰って這入はいって見ると、濁っている。別に黄色く濁っている訳ではないが、御茶の味から演繹えんえきすればやっぱりっぱい湯につかっているとよりほかに考えようがない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かの二氏のごときは空中の楼閣を構成し来たりて人民を教唆したるにあらず。ただ人民は実際上の事実を観察し、これを帰納し、これを演繹えんえきして、一片の議論を作為したるのみ。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
一は公理から演繹えんえきし一は事実から帰納するのである。この点からもルクレチウスのほうが自然科学的である。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私の証拠立てようとするのは、この鼻とこの顔は到底調和しない。ツァイシングの黄金律を失していると云う事なんで、それを厳格に力学上の公式から演繹えんえきして御覧に入れようと云うのであります。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここではともかくそうしてできた五七また七五調が古来の日本語に何かしら特に適応するような楽律的性質を内蔵しているということをたとえ演繹えんえきすることは困難でも
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ただ小説の場合には方則があまりに複雑であって演繹えんえきの結果が単義的ユニークでなく、答解が幾通りでもあるに反して、理学の場合にはそれがただ一つだという点に著しい区別がある。
科学者と芸術家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから演繹えんえきされる各種の命題を将来の市電経営法の改善に応用したいように思う。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
先生がそれを使ってともかくも一つのまとまった帰納とそれからの演繹えんえきをすることに成功したとすれば、この場合は明白に先生が陶工であり弟子は陶土の供給者でなければならない。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうしてそれらの世襲知識を整理し帰納し演繹えんえきしてこの国土に最も適した防災方法を案出し更にまたそれに改良を加えて最も完全なる耐風建築、耐風村落、耐風市街を建設していたのである。
颱風雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そういうものの存在はもちろん仮定であろうが、それを出発点として成立した物理学の学説は畢竟ひっきょう比較的少数の仮定から論理的演繹えんえきによって「観測されうる事象」を「説明」する系統である。
相対性原理側面観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この「相撲取草」が何であるかということを本文の内容から分析的に帰納きのう演繹えんえきして、それがどうしても「メヒシバ」でなければならないという結論に達した、その推理の径路を一冊の論文に綴って
随筆難 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)