わき)” の例文
水車の音が単調に聞えて、涙含なみだぐまるるような物悲しさが、快活に働いたり、笑ったりして見せているお島の心の底に、しみじみわきあがって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
姫様ひいさまから、御坊へお引出ものなさる。……あの、黄金こがね白銀しろがね、米、あわわきこぼれる、石臼いしうす重量おもみが響きますかい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは或る信心ぶかい二人の女人によって建てられたのだというものもあったし、それゆえその近くの巌間いわまから清冽な水のわき出るのを「尼の泉」と唱えるなどともいった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
趣味をむさぼっては飽くことを知らぬという調子であったから、日夕の飲食にも始終趣向趣向といって居った、まして二、三人の会食でもやるとなれば、趣向問題がわき返ったものである
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私は表へ飛出して、夢中で雪道をすたすたと歩いて、何の買物をしたかも分らない位。風呂敷包を抱〆だきしめて、口惜しいと腹立しいとで震えました。主人をけなすという心は一時にわき上る。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな優しい心持ちのわきだすのを老伯自身さえ不思議に思ったほどであろう。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うらみにくみも火上の氷、思わず珠運はなた取落とりおとして、恋の叶わずおもいの切れぬを流石さすが男の男泣き、一声のんで身をもがき、其儘そのままドウとす途端、ガタリと何かの倒るゝ音して天よりいでしか地よりわきしか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蛆虫うじむしの黒きかたまりわき出でゝ
肉体の苦痛をえ忍ばされたあとでは、そうした男に対する反撥心はんぱつしんが、彼女の体中にわきかえって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いたるところでの成功の噂が伝わって、人気をわき立たせた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)