海霧ガス)” の例文
すでに刻限も夜半に近く、ほどなく海霧ガスも晴れ間を見せようというころ、ラショワ島の岩城は、いまや昏々こんこんと眠りたけていた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは、宵の口に帰港した千島帰りの一トロール船が、大きなうねりに揺られながら、海霧ガスの深い沖合にいかりをおろしている釧路丸を見たと云う。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
祝津しゅくつの燈台が、廻転する度にキラッキラッと光るのが、ずウと遠い右手に、一面灰色の海のような海霧ガスの中から見えた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
するとこれは、やっぱり海霧ガスにつつまれているとしか思えない。だが、そのガスも尋常じんじょういちようのガスではない——
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分は自分が思っている程自分ではなく、今から八十五年前北海の風波や海霧ガスに苦しみながら、干潮の時だけ姿を見せる・此の魔の岬と、実際に戦ったことがあるのだ、と、確かにそう思えて来る。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
このとき海霧ガスはふたたび襲ひ
凾館港春夜光景 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それは、海霧ガスの中を、黄色い星の群れが、迷いさまよってでもいるかのように、その金色の円盤が、島を後光のように覆うていたとか申します。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかし、海霧ガスに包まれた遭難箇所は、水深も大きく、潮流も激しく、荒れ果てていて到底近寄ることは出来なかった。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
薄い海霧ガスが一面に——しかしそうでないと云われれば、そうとも思われる程、淡くかかった。波は風呂敷でもつまみ上げたように、無数に三角形に騒ぎ立った。風が急にマストを鳴らして吹いて行った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
このとき海霧ガスはふたたび襲ひ
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
全帆、はり裂けんばかりに帆桁ヤードを鳴らし、躍りあがる潮煙は迷濛な海霧ガスばかり。そうして、二、三海里近付いたとき双眼鏡をはずした水夫長が
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
執拗な海霧ガスを突破って、水上署のモーターは、けたたましい爆音を残しながら闇の沖合へ消えて行った。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
海霧ガスたちめる、海面を飛びかよう海鴎シーガルアビ鳥ルーシ。プランクトンの豊富な錫色の海をゆく、砕氷や氷山の涯しない行列。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
夜になって辺りが闇にとざされる頃から青白い海霧ガスむと立てこむ夜中にかけて墨のような闇の海を何処どこをなにしにほっつき廻るのか家人が気を揉んで注意を
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
つい一刻ほど前には、なぎさの岩の、どの谷どの峰にも、じめじめした、乳のような海霧ガスが立ちこめていて、その漂いが、眠りを求め得ない悪霊のように思われた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
海霧ガスがあったほどですから、無論なぎでしたでしょう」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
と法水の手が、くびの廻りをかいさぐると、握った指の間から、すうっと這い出るように海霧ガスが遁れて行くのだが、さてそうして開いた掌にはけむりの筋一つさえ残らないのである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
海霧ガスの騎行に光が失せて、大喇叭テューバのような潮鳴りが、岬の天地を包み去ろうとするとき、そのところどころの裂目を、鹹辛しおから疾風はやてが吹き過ぎて行くのだが、その風は氷のように冷たく
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
海霧ガスドアの隙からもくもく入り込んで来て、二人の周囲ぐるりけむりのようになびきはじめた。が、それを聴くと、法水は突然坐り直したが、すると頭上の霧が、漏斗じょうごのように渦巻いて行くのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)