水藻みずも)” の例文
山の上にある麗人国も、谷の底にある獣人国も、見る見る彼女の背後うしろになった。水藻みずも水泡みなわの住んでいる双玉の原も背後しりえになった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
咲き揃った水藻みずもの花は二人の足もとをうしろへ後へとなびいてゆきました。御殿の屋根は薔薇色に、または真珠色に輝きながら、水の底の方へ小さく小さくなってゆきました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
その晩は月は何処のもりにも見えなかった。深くすみわたった大気の底に、銀梨地ぎんなしじのような星影がちらちらして、水藻みずものようなあお濛靄もやが、一面に地上からはいのぼっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夕陽を受けた深海の水藻みずものような黒髪、真っ赤なくび、肩から胴腰から下は水の上に浮いて、トロリとした凝脂あぶらがそのまま、赤い水に溶け込んでしまいそうにも見えるのでした。
さっき、自分がいた堂の濡れ縁の前に、一枚のむしろを見た。——莚の上には、水藻みずものような黒髪をさっと束ねて、朝の光にも耐えぬかのごとく俯っ伏していた、うら若い女房が見えた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それこそ蜘蛛くもの巣のように縦横無尽に残るくまなく駈けめぐり、清冽の流れの底には水藻みずもが青々と生えて居て、家々の庭先を流れ、縁の下をくぐり、台所の岸をちゃぷちゃぷ洗い流れて
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
春吉君は、いつも水藻みずものような石太郎が、こんなにはっきり、ちくしょうっという日本語を使ったこともふしぎだったし、こんなにすばしこい動作どうさができるということも不可解な気がした。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
死体は鯨の脂肪肉あぶらみかアルコール漬の胎児の標本かというような白けた冴えぬ色をし、わずか耳の上に残った五六本の髪の毛が眼玉の抜けた眼窩に入りこみ、耳の穴から青々と水藻みずもが萌えだしている。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうして若殿頼正は、今夜もこの家へ引き寄せられ、美しい娘の水藻みずもに化けた百歳のおうな久田のためにたぶらかされているらしい。しかも若殿頼正の生命いのちは寸刻にせまっているらしい。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
姫は、水藻みずもの中の月のような白い顔と黒髪とを、かすかに、横に振るだけである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の乙女は水泡みなわといい、もう一人の乙女は水藻みずもと云った。彼女らは珍らしい双生児ふたごであった。そうして彼女らは先祖代々、ここの神殿の祭司たるべく、運命づけられている人達であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「産まれは京都みやこ、名は水藻みずも、恐ろしい人買ひとかいにさらわれまして……」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こう云ったのは水藻みずもであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「はい、水藻みずもと申します」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)