たるき)” の例文
それは破れた数本のたるきのある小家で、くずちようとしている壁を木の股で支えてあるのが見えた。そこに小さな室があった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
広い家の隅々にまで百目蝋燭ひゃくめろうそくを立てつらねて、ひとりつくねんと待っていると——風が出たか、古いたるきがみしと鳴ったりしてなんとも物凄いようだ。
百何十名の大オーケストラが入るオーケストラボックスを舞台のたるきの下に半円形で作った特殊な構造の劇場なのです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
が、最近、やっとわかったのは、このデカ氏はピカピカゴロゴロの間中、光の届かぬたるきの下の一番奥の方に身を潜め、息を殺しているわけなのであった。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
青年になってからも、本郷の中央会堂のたるきの下のところでやっていた酒井勝軍のもとに通ったりして、発声の稽古けいこなどしたが、私には酒井勝軍も驚いた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
馬の家の南に荒れたはたがあって、そこにたるきの三四本しかない小舎こやがあった。陶はよろこんでそこにおって、毎日北の庭へきて馬のために菊の手入れをした。
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上へぬけ出そうと押してはみるが、梁やら桁やら、たるきやら、瓦やら土やら積み重なっていることとて、いっかな動きそうにもない。ぱちぱち近くで火の燃え上がる音がする。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
中間支柱なく上部は一尺二寸間ごとにたるきを置き一面に玻璃はりを以っておおわれ、下部は粧飾用敷煉瓦しきれんがを敷詰め、通気管は上部突出部および中間側窓と、下方腰煉瓦こしれんがの場所に設けらる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
客は自若じじゃくとして答えなかった。蛇はたちまち突入して、第十五の輪まで進んで来た。女は再び水をふくんで吹きかけると、蛇はたるきのような大蛇となって、まん中の輪にはいった。
たるき、縁、床板に至るまで、一本のけやきを以て建てたのがこの本堂だそうでございます、それはいろいろと因縁話いんねんばなしもございますようですが、ともかく、ごゆっくり、ごらん下さいまし……
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又ある時、彼は吉莫靴かわぐつをはいて、石瓦の城に駈けあがった。城上のかきには手がかりがないので、かれは足をもって仏殿の柱を踏んで、のきさきに達し、さらにたるきじて百尺の楼閣に至った。
黒色で、身のたけは三十余丈、それにしたがう小蛇の太さはたるきのごとく、柱のごとく、あるいは十こく入り又は五石入りのかめのごときもの、およそ幾百匹、東から西へむかって隊を組んで行く。