柳原やなぎわら)” の例文
惆然ちゅうぜんとして牛の歩みを運ぶ平次の人間らしさを、八五郎は黙って見やるのでした。柳原やなぎわらの道には夏の陽が一パイに射しておりました。
見よ不正確なる江戸絵図は上野の如く桜咲く処には自由に桜の花を描き柳原やなぎわらの如く柳ある処には柳の糸を添え得るのみならず
師走初めの冷たい風が、向う柳原やなぎわらから神田川の水をかすって、ヒュッ——と町の横丁へまで入ってくる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つは本郷追分ほんごうおいわけから谷中やなかまでひと舐めさ、こっちはおめえ小石川から出たやつが上野へぬけてよ、北風になったもんで湯島から筋違橋すじかいばし、向う柳原やなぎわら、浅草は瓦町かわらちょうから茅町かやちょう
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その日は風の多い日で、半蔵らは柳原やなぎわらの土手にかかるまでに何度かひどい砂塵すなぼこりを浴びた。きには追い風であったから、まだよかったが、もどりには向い風になったからたまらない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのころの柳原やなぎわらで、日露戦争後の好景気で、田舎いなかから出て来て方々転々した果てに、一家はそこに落ち着き、小僧と職人四五人をつかって、靴屋をしていたのだったが、銀子が尋常を出る時分には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「此処は東京なら日蔭町ひかげちょう柳原やなぎわらです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
柳原やなぎわらひげすり閻魔えんま境内にて一人。
柳原やなぎわら福寿狸ふくじゅだぬき 柳森神社
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
本所柳原やなぎわら新辻橋しんつじばし京橋八丁堀きょうばしはっちょうぼり白魚橋しらうおばし霊岸島れいがんじま霊岸橋れいがんばしあたりの眺望は堀割の水のあるいは分れあるいはがっする処、橋は橋に接し、流れは流れと相激あいげき
柳原やなぎわらの土手下、ちょうど御郡代おぐんだい屋敷前の滅法めっぽう淋しいところに生首なまくびが一つ転がっておりました。
店をだし初めた古着屋ふるてやが、戸板だの、つるしん棒を、黄昏たそがれ柳原やなぎわら土手に、並べ初めている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は右を見、左を見して、新規にかかった石造りの目鏡橋めがねばしを渡った。筋違見附すじかいみつけももうない。その辺は広小路ひろこうじに変わって、柳原やなぎわらの土手につづく青々とした柳の色が往時を語り顔に彼の目に映った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
東都柳原やなぎわらの土手には神田川の流に臨んで、筋違すじかい見附みつけから浅草あさくさ見附に至るまで毿々さんさんとして柳が生茂おいしげっていたが、東京に改められると間もなく堤は取崩されて今見る如き赤煉瓦の長屋に変ってしまった。