枝垂桜しだれざくら)” の例文
旧字:枝垂櫻
この神苑の花が洛中らくちゅうける最も美しい、最も見事な花であるからで、円山公園の枝垂桜しだれざくらが既に年老い、年々に色褪いろあせて行く今日では
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
東妙和尚は、広い庭の真中に植えられた大きな枝垂桜しだれざくらの下の日当りのよいところにむしろを敷いてその上で、石の地蔵をコツコツときざみはじめる。
オルガンティノは一瞬間、降魔ごうまの十字を切ろうとした。実際その瞬間彼の眼には、この夕闇に咲いた枝垂桜しだれざくらが、それほど無気味ぶきみに見えたのだった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十分あまりも経っただろうか、枝垂桜しだれざくらに上っていた、例の大猿が悲鳴を上げた。そうして枝から転がり落ちた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしいまだかつて京都祇園ぎおんの名桜「枝垂桜しだれざくら」にも増して美しいものを見た覚えはない。数年来は春になれば必ず見ているが、見れば見るほど限りもなく美しい。
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
その夜の夢にある岡の上に枝垂桜しだれざくらが一面に咲いていてその枝が動くと赤い花びらが粉雪のように細かくなって降って来る。その下で美人と袖ふれ合うた夢を見た。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
池の中洲に海底石の龕塔がんたふが葉を落した枝垂桜しだれざくらを挿んで立つてゐる。それを見ながら横になつてゐると、滝の音とは違ふ落ち水のしたたりがお亭の入口の方でした。
名園の落水 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
山門をはいってずっと奥にゆきますと、鐘楼があって、そこにまた格好のいい見事な枝垂桜しだれざくらがあります。
女の話・花の話 (新字新仮名) / 上村松園(著)
雪も消えて、つつじヶ岡おか枝垂桜しだれざくらも咲きはじめ、また校庭の山桜も、ねばっこい褐色かっしょく稚葉わかばと共に重厚な花をひらいて、私たちはそろそろ学年末の試験準備に着手していた頃であった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私たちは足を麓のほとりにたゆたわす程の序に、大間々おおままという駅近くのおすみ桜という名木を見物いたします。月は五月に入って見事なこの枝垂桜しだれざくらはすっかり葉桜になっておりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芙蓉ふよう、古木の高野槇かうやまき、山茶花、萩、蘭の鉢、大きな自然石、むくむくと盛上つた青苔あをごけ枝垂桜しだれざくら、黒竹、常夏とこなつ花柘榴はなざくろの大木、それに水の近くには鳶尾いちはつ、其他のものが、程よく按排あんばいされ
これなるは有名なる醍醐の枝垂桜しだれざくら、こちらは表寝殿、あおい、襖の絵は石田幽汀いしだゆうていの筆、次は秋草の間、狩野山楽かのうさんらくの筆、あれなる唐門からもんは勅使門でございます、扉についた菊桐の御紋章、桃山時代の建物
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
巨大な一座の枝垂桜しだれざくらが、根もとまでベッタリ花をつけていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)