木蔦きづた)” の例文
ベルは木蔦きづたの葉の中にわずかにボタンをあらわしていた。僕はそのベルの釦へ——象牙ぞうげの釦へ指をやった。ベルは生憎あいにく鳴らなかった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風が東から吹く時には、対岸の村々の鐘が、ごく遠くからそれに響きを合わせる。木蔦きづたのからんだ壁に群がってるすずめが、騒がしく鳴きたてる。
……その時、向うの亭の木蔦きづたのからんだ四目垣よつめがきごしに、写真機を手にした明さんの姿がちらちらと見えたり隠れたりしているのにお前は気がついた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
結ぶのに、だいじな麻縄を使ってしまうのはもったいないので、森の中の木蔦きづたのるいを切り取って縄の代りにし、かんじんの部分だけほんものの麻縄を使うことにしました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼の小舎の外側には木蔦きづたが一ぱいにまとひつかせてあつた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
木蔦きづたつるからまるゝ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それはまた木蔦きづたのからみついたコッテエジ風の西洋館と——殊に硝子ガラス窓の前に植えた棕櫚しゅろ芭蕉ばしょう幾株いくかぶかと調和しているのに違いなかった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……その時、向うのちん木蔦きづたのからんだ四目垣よつめがきごしに、写真機を手にした明さんの姿がちらちらと見えたり隠れたりしているのにお前は気がついた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
木蔦きづたのからんだ洋風の階段を見出した時に、少年よりいくぶん早熟ませているらしい少女は思い切ったように言った。
あいびき (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
柘榴ざくろだの、かきだの、椰子やしだの、竹だのもある。がまた、くちなしだの、椿つばきだのも茂つてゐる。あたりまへの歯朶しだも到る所にある。木蔦きづたも壁にからんでゐる。道ばたにはあざみ沢山たくさんある。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)