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曳々
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えいえい
近間な距離ながら時間を要したこというまでもなく、
曳々として人馬はすでに戦っているに等しい
呼吸だった。
またそれがために
勢を増し、力を
得ることは、
戦に
鯨波を挙げるに
斉しい、
曳々! と一斉に声を合わせるトタンに、
故郷も、
妻子も、死も、時間も、慾も、未練も忘れるのである。
唯有る横町を西に切れて、
某の神社の石の
玉垣に沿ひて、だらだらと
上る道狭く、
繁き木立に南を
塞がれて、残れる雪の
夥多きが
泥交に踏散されたるを、
件の車は
曳々と
挽上げて
舳櫓の
船子は海上
鎮護の神の
御声に気を
奮い、やにわに
艪をば立直して、
曳々声を
揚げて
盪しければ、船は
難無く
風波を
凌ぎて、今は我物なり、
大権現の
冥護はあるぞ、と
船子はたちまち力を得て