曳々えいえい)” の例文
素鼠縮緬すねずみちりめん頭巾被づきんかぶれる婦人は樺色無地かばいろむじ絹臘虎きぬらつこ膝掛ひざかけ推除おしのけて、めよ、返せともだゆるを、なほ聴かで曳々えいえいき行くうしろより
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
近間な距離ながら時間を要したこというまでもなく、曳々えいえいとして人馬はすでに戦っているに等しい呼吸いきだった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またそれがためにいきおいを増し、力をることは、たたかい鯨波ときを挙げるにひとしい、曳々えいえい! と一斉に声を合わせるトタンに、故郷ふるさとも、妻子つまこも、死も、時間も、慾も、未練も忘れるのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯有とある横町を西に切れて、なにがしの神社の石の玉垣たまがきに沿ひて、だらだらとのぼる道狭く、しげき木立に南をふさがれて、残れる雪の夥多おびただしきが泥交どろまじりに踏散されたるを、くだんの車は曳々えいえい挽上ひきあげて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
舳櫓ともろ船子ふなこは海上鎮護ちんごの神の御声みこえに気をふるい、やにわにをば立直して、曳々えいえい声をげてしければ、船は難無なんな風波ふうはしのぎて、今は我物なり、大権現だいごんげん冥護みょうごはあるぞ、と船子ふなこはたちまち力を得て
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)