普請ぶしん)” の例文
ただこの際、幸い、自分が先に歩む者の立場におかれておりますから、久しい間のぬかるみを、道普請ぶしんして参るつもりです。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも三日か四日のつくろ普請ぶしんで、そのなかで少し長かったのは深川の十日と雑司ヶ谷の二十五日であると云った。
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「絵は無理だよ。僕は見るのは好きだが、手は出せない。書だと何人だれでも子供の時分の下地があるから、いつ始めても普請ぶしんになるけれどもね」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
借家普請ぶしんの新建ちで二階が三間に階下が四間前栽せんざいも何もない家で家賃五十五円と云うのですから、まだ見ていないのですけれども狭さは想像されます。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
八月の炎天の下、屋根普請ぶしんに三四人の工人達が屋根を這ったり上ったり降りたりしていた。黒赭いろの背中、短いズボンで腰部をかくすほか、ほとんど裸体であった。
真夏の幻覚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
……城の大手の道普請ぶしんで、かれが人夫だまりの警護に立っていると、ふいにお浜館の忠秋が通りかかった、二人の小姓をれただけで、いつものとおり大股にさっさと歩いて来たから
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大体において近代の技法が甚だせっかちにして粗雑で、ちょっと見た時大変立派で、しばらく見ていると穴だらけのガタ普請ぶしんであり、味なき世界を呈しがちである事は近代技法の悪の半面でもあろう。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「その日にそなえ、西園寺家では、ひそかに数多あまたな番匠を入れ、数日前からお湯殿普請ぶしんなどいそがせておりまする」
勿論、貸家普請ぶしんの建具ぐらいの仕事が精々と思われるような店付きであった。表から覗くと、伊之助は小僧を相手に、安物の格子戸を削っていた。松吉は声をかけた。
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仕事があれば——道路普請ぶしんの人夫でも——大学を止めて働きに行くそうです。イリデ叔母様とジャネットと私達二人一緒になってお店の商品を片っぱしから英仏独で呼び合いました。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なるほど家は新建ちであるから、明るいと云えないことはないが、柱の細い、根太ねだの悪い、見るからに粗末な借家普請ぶしんで、子供たちが梯子段はしごだんけ降りてさえ家じゅうがぐらぐらする。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「丁度好い。面白いことがあるんだよ。にわ普請ぶしん大伽藍だいがらんがグラつき出した」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
孜々営々ししえいえいである。昼夜兼行けんこうである。そしてこの割普請ぶしん制の汗の下に、磐石ばんじゃくも巨木も、思うままに動かされていた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石曳き普請ぶしんの石曳きたちは、おもしろそうに歌っているし、鑿や手斧が、木屑を飛ばしている仕事にも、彼は、足を止められて、思わず道草を喰っていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つい両三年ほど前からやっと仮屋普請ぶしんの軒並みが建ち始めて、やや旧観の坂本宿を復活して来たばかりの街道を駈けぬけて、延暦寺道えんりゃくじみちの登りに向いかけた頃、ようやくうしろの湖水に
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この離屋はなれは橋廊下をへだてて、二重壁となっている一見奇怪なからくり普請ぶしん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に、走って行った乾児は仮橋普請ぶしんをしている大工を二人連れて来て
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、この部屋には、なにか危険なカラクリ普請ぶしんがしてあるのだ。さもなくて、自分の口から、腕ではかなわぬと告白している周馬が、アア落ちつきはらっていられるものではない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
では、どこにあるかといえばお前らの中にあるのだ。領民が石垣だ、塀だ、ほりだ。——おまえらはこのお城普請ぶしんに働いて、他家よその壁を塗っていると心得ておるか知らんが、そいつは大間違いだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ、お城普請ぶしんには、三つの法がある。第一が秘速ひそく。秘密に迅速ということである。第二には堅粗けんそ、堅固にして粗なるもよしということである。装飾や美観は泰平になってからやれば宜しい。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二の丸のお城普請ぶしんへ行く玉川砂利をこの河岸で上げる。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)