文机ふづくえ)” の例文
左手の前方には、墨黒々と不細工ぶさいくな書院風の窓が描かれ、同じ色の文机ふづくえが、そのそばに角度を無視した描き方で、据えてあった。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
傍らの文机ふづくえや文庫から手まわりの物を取って、腰に帯びたり、懐紙をふところへ納めてみたり、まるで空耳そらみみに聞いているかのような容子ようすに見えた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お師匠様が小松谷の禅室にお暇乞いとまごいにいらした時法然様は文机ふづくえの前にすわって念仏していられました。お師匠様は声をあげて御落涙なされましたよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
縁側えんがわ寄りの中硝子なかガラス障子しょうじの前に文机ふづくえがかたの如く据えてある。派手な卓布がかかっている。その一事のみがこの部屋の主人の若い女性であるのを思わせている。
邸を出る前までたしかに居間の文机ふづくえの上に置いたことはわかっているのだが、なにしろ朝の時間は万年青で夢中になる習慣なので、置き忘れて来たものか持って出たものか
顎十郎捕物帳:02 稲荷の使 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それは二つの引き出しのついた文机ふづくえでした。俊夫君はまずその左の引き出しを開けました。
自殺か他殺か (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
とお種は自分で自分の身体をあわれむように見て、た急に押隠した。満洲の実から彼女へてて来た手紙が文机ふづくえの上にあった。彼女はそれを弟に見せようとして、起って行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは、文机ふづくえほどの大きさで、上から糸で人形を垂らして、舞台になるものだった。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
銀台に輝かしく輝いているおろうそくが、そのまに文机ふづくえの左右に並べられた。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
お蓮様は裾を乱して、片隅の文机ふづくえの上の硯箱すずりばこと、料紙りょうし入れへかけ寄りながら
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今宵、彼女は文机ふづくえのわきに、小さい土炉どろをおいて、薬湯やくとうをたぎらせていた。——そしてこれは徒然つれづれがちな宮中ではよくしていた習性から、さる手書てがきの「古今和歌集」をお手本として手習いしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文机ふづくえをといいつける。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)