掛軸かけじく)” の例文
山口の大同にあるオクナイサマは木像なり。山口の辷石はねいしたにえという人の家なるは掛軸かけじくなり。田圃たんぼのうちにいませるはまた木像なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
とこ掛軸かけじく筆太ふでぶとに書かれた「平常心」の三字も、今のかれにとっては、あまりにもへだたりのある心の消息でしかなかったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
遠くの掛軸かけじくを指し、高いところの仏体を示すのは、とにかく、目前に近々ちかぢかと拝まるる、観音勢至かんおんせいし金像きんぞうを説明すると言って、御目おんめ、眉の前へ、今にも触れそうに
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内庭の向うを覗くと、なるほど、斑竹はんちくのすだれ越しに、花瓶かびんの花、四ふく山水さんすい掛軸かけじく香卓こうたく椅子いすなどがいてみえる。——燕青えんせい禿かむろの女の子の手へ、そっとおかねを握らせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足の痛いのを我慢しながら、じっとお経をきいていると、だんだんねむくなって来る。時々燈明がぼうっと明るくなると、仏壇の中の仏像だの、色々な金色こんじきの仏様の掛軸かけじくだのが、浮いて見えた。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今日の式場と食卓とでうけた刺激しげき余波よはは、かれに小まめな仕事をやらせるには、まだあまりに高かったし、床の間の「平常心」の掛軸かけじく
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
関東の各地に行われているオシラこうの祭神は、馬にし桑の枝を手に持った女人像の掛軸かけじくであり、名馬に導かれて天に昇り、絹をく一種の虫となってふたたびこの世にくだったという
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
午前十時の陽が、磨硝子すりガラスをはめた五間ぶっとおしの窓一ぱいに照っており、とこの「平常心」と書いた無落款むらっかんの大きな掛軸かけじくが、まぶしいほど明るく浮き出している。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)