折悪おりあし)” の例文
旧字:折惡
よいに乗じて種々いろいろ捫着もんちゃく惹起ひきおこしているうちに、折悪おりあしくも其処そこへ冬子が来合わせたので、更にこんな面倒な事件を演出しいだす事となってしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
折悪おりあしく井戸換の最中だったので、水が使えないので、火消隊の面々は非常に狼狽して、畦道あぜみちの小川までホースを伸ばそうとしているらしい。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
折悪おりあしく一人の宿直士とのい番士ばんしの影も見えぬ。警護の有余ありあまつた御館おやかたではない、分けて黄昏たそがれの、それぞれに立違たちちがつたものと見える。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
不必要な場合に亡霊を宣伝し、また僕の研究の秘密を盗もうとして、折悪おりあしく来合せたみどりさんを檻禁かんきんした。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ところがおよそ五六丁も来ると、磯際いそぎわに大きな洞穴ほらあながあって、両人がそれへ這入はいると、うまい具合と申すか、折悪おりあしくと申すか、潮が上げて来て出る事がむずかしくなりました。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それにしても、その古鞄の転落した時、折悪おりあしく卸したと思った錠前が、どうかしたはずみでうまくかかっていなかったというのは、よくよくの不運といわねばなりません。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこは福知山柳端の、直真蔭流じきしんかげりゅう春日かすが重蔵の町道場であった。折悪おりあしく高弟二、三の達者が居合さなかったので、次には重蔵が自身、矢倉伝内の対手あいてに立たねばならない順になった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時は折悪おりあしく、釣船も遊山船ゆさんぶねも出払って、船頭たちも、漁、地曳じびきで急がしいから、と石屋の親方が浜へ出て、小船を一そう借りてくれて、岸を漕いでおいでなさい、山から風が吹けば
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)