抑留ひきと)” の例文
同じような岩や、同じような谷や、同じような坂が、そこにも此処ここにも路をさえぎって、彼女かれらじと抑留ひきとめるようにも思われた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひめをばかり墓所はかしょより、きたりてすくされよ、とロミオかたまうりしに、使僧しそうヂョンとまうもの不慮ふりょことにて抑留ひきとめられ、夜前やぜんそのしょ持歸もちかへってござりまするゆゑ、目覺めざめなばさぞ當惑たうわく
大切な娘の命を助けられたそのお礼がまだ十分に云い足りないというので、老人はしきりに彼を抑留ひきとめた。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お葉はゆるんだ帯を結び直して、店口みせぐち有合ありあう下駄を突ッ掛けると、お清はいよいよあやぶんで又抑留ひきとめた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも其の家は鉄次郎の澹山がこれから踏み込もうとする城下の町にあるというので、彼はこの上もない好都合をよろこんで、抑留ひきとめられるままに千倉屋の客となった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも別れてゆく女をさすがに抑留ひきとめる気にもなれなかったので、彼はなんだか残り惜しいような心持でそのうしろ影を見送っていたが、やがて思い切って信西の屋敷の門をくぐった時には
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
扨は例の怪物だナと悟ったから、この畜生めッと直ぐに鉄砲を向けると、其の人は慌てて私の手を捉え、アアモシとんだ事を為さる、アノ坊さんに怪我でもせては大変ですと、無理に抑留ひきとめる。
その仔細を知らぬ番人夫婦は、余りお早いではありませんか、せめてモウ五六日、せめて殿様がおいでになるまで、とことばを尽して抑留ひきとめたが、私はモウ気が気でない、無理に振切ふりきって逃げて帰った。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)