手懸てがかり)” の例文
御存じの烈しいながれで、さおの立つ瀬はないですから、綱は二条ふたすじ染物そめものをしんしばりにしたように隙間すきまなく手懸てがかりが出来ている。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うして置けば手懸てがかりも付くまいと、今度はその死骸を引抱ひっかかえて行って、一ちょうばかり先の小川のほとりへ捨てて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのリンネはかなり急であるが、手懸てがかりの多いガッチリとした岩なので、緊張しながらも愉快にはかどる。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
「どうもこの紙片かみきれは何の手懸てがかりにもなりそうにありません。」と判事はいった。
頼まれ毎度まいど頼み置し事有しが其手紙そのてがみは何方へ屆けしやと尋ねけるに亭主ていしゆ答へて私し方は道端みちばたの見世故在々へ頼まれる手紙は日々二三十ぽんほども有ば一々に覺え申さずことに二十二三年跡の事なれば猶更なほさらぞんじ申さずとこたへけるにいよ/\澤の井の宿所しゆくしよ手懸てがかりなく是に依て次右衞門三五郎の兩人はいろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
座敷内は云うに及ばず、天井裏まで取調べたけれども、更にこれぞと云う手懸てがかりもなく、また庭の内には狐狸の住家らしい穴も見当らぬので、ただ不思議不思議と云い暮して日を経る中に
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
身分の手懸てがかりを知るために、懐中物もしらべねばならず、あるいはいかなる迫害を途上受けたかも計られないから、身内を検するには、着物も脱がさなければならぬ、もちろん帯も解かんけりゃ不可いけない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)