おこ)” の例文
いつものおこつてる時に出る声の返辞。すると私は、無上に気に入らなくなつて、何がなんでもそれをどうかしなければならなくなる。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
「不意にお呼止めしたのをおこりもなさらないで、よく来て下さいました。ほんとうにいつか又お目にかかりたいものですね」
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
こちらの三枝さんの地所へまで目をつけて、それをしがって何度も周旋人を寄こしたりして、奥さんを大へんおおこらせになった事もありました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おふくろは眼でもつて、些と忌々いま/\しさうにして見せたが、それでもおこりもしないで、「お前は眞ンとに思遣おもひやりが無いんだよ。」と愚痴ぐちるやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
子を生み得ないのは女の恥だつて、おこりきつてゐなさるくらゐだのに、当人のお前と云つたら、可厭いやに落着いてゐるから、憎らしくてなりはしない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おこったような調子で自分は笑いもせず宏子ははる子をとがめるが、はる子が何を笑っているのかはよくわかった。
道づれ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「尾の附根が光り出したね、ちょいと失礼だけれど、お尋ねしますがね、おこり出したらいけないよ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
おふくろはほんとにおこったのかしら……と彼は少しづつ気になる。しかし家へ帰ればまた喧嘩しさうなのですぐには帰れない。前吉はソーダ水をストローでかきまぜて、ぢっと考へ込む。
おふくろ (新字旧仮名) / 原民喜(著)
そんなにおこつてばかりいないで、あたしのいふ事もちつたァ聞いておくれな。
もつれ糸 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
彼の父のおこつて居る手紙のなかの、「大勇猛心」と呼んで居るものはどんなものか。それを何処からもたらしてどうして彼の心へ植ゑ込むことが出来るか。どうして彼の心に湧立わきたたせることが出来るか。
絶望的な哀願をもう一度繰返すと、急に、おこったような固い表情に変り、眉一つ動かさず凝乎じっと見下す。今や胸の真上に蔽いかぶさって来る真黒な重みに、最後の悲鳴を挙げた途端に、正気に返った。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
作は少しおこったような風で、お島の姿を見ても、声をかけようともしなかったが、大分たってから明朝あしたの仕かけをしているお島の側へ、汚れた茶碗や小皿を持出して来た時には、矢張やっぱりいつものとおり
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
主翁はしかたなくおこり慍り起きて来た。
怪しき旅僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
須貝 おこらなくったっていいさ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
まささんは男だからさうでせうけれど、わたしあきらめません。さうぢやないとお言ひなさるけれど、雅さんは阿父おとつさんや阿母おつかさんの為方しかたおこつておいでなのに違無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おこったね、じゃ言うよ、人を好くということは人間の持つ一等すぐれた感情でございます。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一太の母は、不平そうにおこったような表情を太い縦皺の切れ込んだ眉間に浮べたまま次の間に来た。小さい餉台の上に赭い素焼の焜炉こんろがあり、そこへ小女が火をとっていた。
一太と母 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
が、人一倍強情な爺やの方はともかくも、婆さんの方はよくそれまで辛抱したものですが、それは女の料簡りょうけんですから、たまには愚痴の一つも出るでしょう。そうすると爺やは大へんにおこります。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「もう少し歩いて行きましょう」と女は濠端ほりばたに添う道の方へ彼を誘った。水の面や、夕暮のもやや、枯木の姿が何かパセチックな予感のようにおもえた。女は黙っておこったような顔つきで歩いている。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
未納 おこらないでよう。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
そんなことを言出さうものなら、どんなにおこられるだらうと、それが見え透いてゐるから、漫然うつかりした事は言はれずさ、お前の心を察して見れば可哀かあいさうではあり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
未納 おこるから、厭。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)