愍然ふびん)” の例文
「漁師町は行水時よの。さらでもの、あの手負ておいが、白いすねで落ちると愍然ふびんじゃ。見送ってやれの——からす、鴉。」
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親方に頭を下げさするようなことをしたかああ済まないと、自分の身体みうちの痛いのより後悔にぼろぼろ涙をこぼしている愍然ふびんさは、なんと可愛い奴ではないか、のうお吉
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは主人へ対して申訳のないこと、朝夕にまといつく主人の子供もさぞ後で尋ね慕うかと思えば愍然ふびんなこと、「これも身から出たさびとっさん堪忍しておくれ、すみより」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
種々と申上げたな全體ぜんたいおのれは何と心得居るや汝等夫婦は貧窮ひんきうせまりて困苦こんくするを愍然ふびんに思ひ是迄此段右衞門が樣々さま/″\見繼みついやつた其恩義を忘れし爰な恩知ずの大膽者だいたんものとはおのれがことなり然るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
男の子はさまで親を懊悩おうのうさせはしないだろうが、女はどうせ女で、親が何と思っても宿命に従わせるほかはないのでしょうが、それでも愍然ふびんに思われて、親のためには大きな羈絆きはんになりますよ
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源太は尚も考にひとり沈みて日頃の快活さつぱりとした調子に似もやらず、碌〻お吉に口さへきかで思案に思案を凝らせしが、あゝ解つたと独り言するかと思へば、愍然ふびんなと溜息つき
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ひねり廻してふさいだ顔色がんしょくは、愍然ふびんや、河童のぬめりで腐って、ポカンと穴があいたらしい。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なし細き煙をたてけるが嫁のお菊は老實まめ/\しく立働き孝養かうやうおこたり無りしかば母のお八重も大に喜こびむつましくこそくらしけれ此お菊は未だ二十はたちを一ツ二ツこえとしなれば後家を立さするも愍然ふびんゆゑ聟養子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
清浄の血を流さむなれば愍然ふびんともこそ照覧あれと、おもひし事やら思はざりしや十兵衞自身も半分知らで、夢路を何時の間にか辿りし、七藏にさへ何処でか分れて、此所は、おゝ、それ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
源太はなおも考えにひとり沈みて日ごろの快活さっぱりとした調子に似もやらず、ろくろくお吉に口さえきかで思案に思案を凝らせしが、ああわかったとひとごとするかと思えば、愍然ふびんなと溜息つき
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
清浄しょうじょうの血を流さんなれば愍然ふびんともこそ照覧あれと、おもいしことやら思わざりしや十兵衛自身も半分知らで、夢路をいつの間にかたどりし、七蔵にさえどこでか分れて、ここは、おお、それ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
噫悪かつた、逸り過ぎた間違つた事をした、親方に頭を下げさするやうな事をした歟あゝ済まないと、自分の身体みうちの痛いのより後悔にぼろ/\涙をこぼして居る愍然ふびんさは、何と可愛い奴では無い歟
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)