悲嘆なげき)” の例文
送った方がよろしいと僕は思います。すべて女の惑いからいろんな混雑や悲嘆なげきが出て来るものです。現に僕の事でも彼女あのおんなが惑うたからでしょう……
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かかることを書き連ね、身の恥を忘れ、愚かしき悲嘆なげきを包むのいとまもなきは、ひとえに君とお雪とを救わんとの願に外ならず候。あわれむべきはお雪に候。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかもなによりこまるのは、現世げんせのこっている父母ふぼ悲嘆なげきが、ひしひしと幽界ゆうかいまでつうじてることでございました。
カピ妻 心得こゝろえました、むすめこゝろ明日あすはやたゞしましょ。今宵こよひ悲嘆なげきとらはれて、閉籠とぢこめてのみまする。
しつとりとしめつた悲嘆なげきが私の影法師を深く迷はしてゆく
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
あゝ、穢多の悲嘆なげきといふことさへ無くば、是程これほど深く人懐しい思も起らなかつたであらう。是程深く若い生命いのちを惜むといふ気にも成らなかつたであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
悲しい一生の悔恨くい悲嘆なげき追憶つゐおく
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
式もた簡短であつた。単調子なかね、太鼓、鐃鈸ねうはちの音、回想おもひでの多い耳には其も悲哀な音楽と聞え、器械的な回向と読経との声、悲嘆なげきのある胸には其もあはれの深い挽歌ばんかのやうに響いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
流石さすが、省吾は未だ子供のことで、其禽獣とりけもの悲嘆なげき光景さまを見ても、丁度お伽話とぎばなしを絵で眺めるやうに、別に不思議がるでも無く、驚くでも無い。無邪気な少年はたゞ釈迦しやかの死を見て笑つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)