恩誼おんぎ)” の例文
が、譲吉が近藤夫人から受けた恩誼おんぎが、何んなに大きいかを知って居る彼女は、譲吉がその夜帰らぬ事に就いて何等の抗議をもしなかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかして神道しんとうが日本民族固有こゆう観念かんねんを代表するものならば、恩誼おんぎを知るは取りもなおさず日本民族の特長であると断言してよかろうと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
再縁再度の不幸を想いては佐太郎の妻となるべき女をうらやみ、佐太郎の一方ならぬ恩誼おんぎを思いては、この家を出てまた報ゆるの時なきをかこち
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
ただ鈴木氏の永年の恩誼おんぎは厚かったにしても、最後に人知れずその瓢をくくりつけて去ったという一点だけが、彼らのとうてい企てえまいと思うロマンチックであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
徳川幕府二百六十年の恩誼おんぎに報いようと、旗本の士が、官軍に抗しての戦いで、順逆の道には背いた行為ではあったが、義理人情から云えば、悲しい理の戦いでもあった。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勿論これは恩誼おんぎある先輩に対する気兼ねからでもあり、同時に自分の無学から来るヒケメからでもあったのですが、しかし他人は知らず江戸川乱歩氏のそうした恩誼に対して
松屋新兵衞を始めとして亥太郎、國藏も文治の恩誼おんぎを思い、日々夜々にち/\よゝ稼ぎましては幾許いくらかの手助けをして居ります故、お町は存外困りませぬ、或日あるひ友之助が尋ねてまいりまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万福寺建立以来の青山家代々が恩誼おんぎを思い、ことに半蔵とは敬義学校時代のよしみもあるので、和尚は和尚だけのこころざしを受けてもらいに、旧本陣まで今々行って来たというところであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いな、誤らざるどころでない、実によく穿うがっていることを感じて、その後ますます恩誼おんぎを知るの感を深めることについて、心のうちにつとめている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
われ泣いて呉れるか、有がてえ、畜生でさえも恩誼おんぎを知り名残を惜むで泣いてくれるに、それに引換え女房おえいは禽獣とりけものにも劣った奴、現在亭主のおれを殺すべえとする人非人め、これ青
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その人の恩誼おんぎをさらに感知しないで、見当違いのかた無闇むやみに有難がっていることもあり得ると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
重ね/″\の不幸続き、いよ/\今日という今日は死なねばならぬ事に成り果てました、今までの恩誼おんぎはたとえの世へこうとも決して/\忘れはせぬ、此の上は其方そちも山奥へ帰り
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
請出した恩誼おんぎも有るからよもやと思います、の時など手を合せて、わたしは生涯此地こゝに芸妓を為て居る事かと思いましたが、貴方のお蔭で足を洗って素人に成れまして、んな嬉しい事は無い
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人と見たら囓付かみつくべき猛獣が、私の命を助けるとは此の上の恩誼おんぎはない、辱けない/\、さア熊よ、お前はもういから早く元の穴へお戻り、うか/\してると猟人かりゅうどのために撃たれるぞよ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)