恐悦きょうえつ)” の例文
秋作氏は、立上のやつ、独逸ドイツから近代眼科学の精髄せいずいをかっぱらって来やがったそうだ。と、恐悦きょうえつしながらキャラコさんに話してきかせた。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
... 私が今お登和さんに教わって美味おいしいお料理を御馳走しますから」大原いよいよ恐悦きょうえつ「どうぞ願いたい、御辞退は致しません」妻君
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
狼狽ろうばいそのもののようなこの混雑が静まったのは、半月ほど前にあたる。浦賀へ押し寄せて来た唐人船も行くえ知れずになって、まずまず恐悦きょうえつだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「先生、がんりきを見込んで、そうおっしゃって下さるのは有難え」——手を額にして恐悦きょうえつしたのはつい先頃のことです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いかにも七代目海老蔵しちだいめえびぞうに御座います。久しくお目にかかりませぬが先生には相変らず御壮健恐悦きょうえつ至極しごくに存じます。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでは改めて、御挨拶ごあいさつ申し上げよう。吾輩わがはいは、X大使である。クロクロ島の酋長しゅうちょう黒馬博士くろうまはかせに、恐悦きょうえつを申し上げる!
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ガラッ八はすっかり恐悦きょうえつしてしまいました。先刻さっき門から入った痣の娘も、今の中年増もこの家の者だとすると、全く妙なところへ飛び込んでしまったことになります。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おきなはれやと芸者は平手で野だのひざを叩いたら野だは恐悦きょうえつして笑ってる。この芸者は赤シャツに挨拶をした奴だ。芸者に叩かれて笑うなんて、野だもおめでたい者だ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
卑屈にねて安易に絶望と虚無を口にして、ひたすら魅力ある風格をてらい、ひとを笑わせ自分もでれでれ甘えて恐悦きょうえつがっているような詩人を、自分は、底知れぬほど軽蔑しています。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は恐悦きょうえつの至りだと言った。
たいした身代になって誠に恐悦きょうえつ
と、非常に恐悦きょうえつしていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
検事は、病院の中で紅茶がのめるなんて思わなかったと、恐悦きょうえつていであった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや、どうも、」と私は内心、恐悦きょうえつの念禁じ難く、「日本人は口が悪いですからね。べつにお国のそのような教えを軽蔑しているわけではないのですが、どうも辛辣しんらつ嘲笑癖ちょうしょうへきがあっていけません。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こんな傍若無人ぼうじゃくぶじん囈語げいごを吐いてひとりで恐悦きょうえつがるのである。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ときどき傍聴ぼうちょうに来る醤買石しょうかいせきは、その都度、あごの先をつねって恐悦きょうえつした。
愛宕山あたごやまの上では、暴徒の指導者、鬼川が、一人で恐悦きょうえつがっていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)