御岳おんたけ)” の例文
旧字:御嶽
身延山みのぶさんの霊場、御岳おんたけの風光、富士の五湖、それに勝沼の葡萄ぶどう、甲斐の国といえば誰もこれらのものを想い浮べることでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
御岳おんたけ産まれの浜路という娘、恋人があるのでございます。山影宗三郎と申しまして、我々にとっては敵方の、水戸の藩士にございます。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
某時あるとき木曾きそ御岳おんたけの麓へ往って、山の中で一夜を明し、朝の帰りいのししを打つつもりで、待ち受けていると、前方の篠竹がざわざわ揺れだした。
女仙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御岳おんたけへ薬草採りにまいったが、どうも、ほしいものがあまりなくてな……。だがまた、意外なもうけ物もいたしたよ。これ」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木曾の道中は、御岳おんたけおろしが、いかにこの剃下げの顱頂部ろちょうぶにしみ込んで、幾夜、宵寝の夢を寒からしめたことか。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのすばらしい白と金とのむこうに恵那えな、駒ヶ岳、御岳おんたけの諸峰が競って天をしているというのだ。見えざる山岳の気韻きいん彼方かなたにある。何ともったぶどうねずみの曇り。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
木曾福島は御岳おんたけへの登山口につづいた町です。昔は名高いお関所のあったところです。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おそらくご存知ではございますまい、江戸は両国の女太夫、大蛇おろち使いの組紐のお仙、宗三郎様の後を追い、御岳おんたけへ来たものでございます」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは、御岳おんたけの神の夢想ではない、眼の前に、子が斬られるか生きるかの境を見て、現実の母が、愛の中からつかみ出した「窮極の活理」であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ア——御岳おんたけ参りが着いたとみえるナ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御岳おんたけを下りて中仙道を下り、名古屋の城下へ入り込んで以来、親子二人してここに宿り、日数を重ねた目的は、山影宗三郎を探すためであった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
峠のくぼみから、薙刀なぎなたなりに走っている白いひらめきは、駒ヶ岳の雪のヒダであり、仄紅ほのあかい木々の芽をかして彼方に見える白いまだらのものは、御岳おんたけの肌だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家は、城下から身延街道みのぶかいどうに近い西青沼のはずれで、家は小さい機屋はたやで、機屋のほかに、御岳おんたけの百草という薬の金看板きんかんばんを出しているという話——そんな話もおぼえている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御岳おんたけの夢想をうけて、杖の自由を体得したという権之助も、今はどうすることも出来なかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)