徒然草つれづれぐさ)” の例文
俺の心はどこにあるのだろう? どこか、このへんに、俺の心が、かくされていないか? 私はとうとう論語も読み、徒然草つれづれぐさも読んだ。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
命松丸は生涯、兼好法師にかしずき、兼好の死後、師の反古を集めて今川了俊いまがわりょうしゅんに提出し、あの“徒然草つれづれぐさ”を残した者だといわれている。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
訴訟をしても、ただは置かぬ、と十三歳の息子の読みかけの徒然草つれづれぐさを取り上げてばりばり破り、捨てずに紙のしわをのばして細長く切り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一休禅師いっきゅうぜんじの逸事長く世人を喜ばしめたるもこれがためにあらずや。兼好法師けんこうほうしが『徒然草つれづれぐさ』には既に多分の滑稽を帯び来れり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひそかな祈りよりも、仏像見物の心の方がまさっていたからであろう。後ほど徒然草つれづれぐさをひらいてみた折、兼好法師の次のような言葉に出会った。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「御坊の筆ずさみとて、このごろ専ら世に持て囃さるる徒然草つれづれぐさという草紙、わたくしもかねて拝見しておりまする。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
このププホルと『徒然草つれづれぐさ』のいわゆるボロボロとを並べて考えてみるとだれでもちょっと微笑を禁じ難いであろう。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
是はにじの地方語変化についてすでに証明せられ、古くは『徒然草つれづれぐさ』にミナムスビ・ニナムスビの説もあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼の文学は、本質的に我が『方丈記ほうじょうき』や『徒然草つれづれぐさ』のたぐいと同じく、仏教的無常観によった『遁世者とんせいしゃの文学』であり、ヘルン自身がまた現実の『遁世者』であった。
しかしもともと武士には蝦夷えぞすなわちエビス出身が多かったから、「徒然草つれづれぐさ」などを始めとして、鎌倉南北朝頃の書物を見ますと、武士のことを「えびす」と云っております。
先生ごく真面目な男なので、俳句なぞは薄生意気うすなまいきな不良老年の玩物おもちゃだと思っており、小説稗史はいしなどを読むことは罪悪の如く考えており、徒然草つれづれぐさをさえ、余り良いものじゃない
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
徒然草つれづれぐさに最初の仏はどうして出来たかと問われて困ったというような話があった。子供に物を問われて困ることはたびたびである。中にも宗教上のことには、答に窮することが多い。
寒山拾得縁起 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
恐らく、『新古今』に心をかけて、及ばぬまでもそれを学ぼうとする態度は、『徒然草つれづれぐさ』に兼好がいったところの、昔の歌はみなよく見える、今のは無下むげにだめになったというのと同じ心である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
所詮しょせん、まともではない。賢者は、この道を避けて通る。ついでながら徒然草つれづれぐさに、馬鹿の真似をする奴は馬鹿である。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
平家物語の治承・寿永の世には、西行法師という風外の歌法師がいたが、太平記の大乱時代にも“徒然草つれづれぐさ”の著者で知られているすね法師の兼好けんこうがいた。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『文学』の編輯者から『徒然草つれづれぐさ』についての「鑑賞と批評」に関して何か述べよという試問を受けた。自分の国文学の素養はようやく中学卒業程度である。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼らは『徒然草つれづれぐさ』の兼好けんこう法師に説かれないでも、僕位の年齢に達するまでには、出家悟道の大事を知って修業し、いつのまにか悟りをひらいて、あきらめの好い人間に変ってしまう。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
日本などにも世道澆季せどうぎょうきを説く人は昔からあった。正法末世しょうぼうまっせという歎きの声は、数百年間の文芸に繰返されている。『徒然草つれづれぐさ』の著者の見た京都は、すでに荒々しく下品な退化であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが徒然草つれづれぐさという空前絶後の批評家の作品なのだと小林は言う。
今の生徒は『徒然草つれづれぐさ』や『大鏡』などをぶっ通しに読まされた時代の「こく」のある退屈さを知らない代りに、頭に沁みる何物も得られないかもしれない。
兼好法師の“徒然草つれづれぐさ”には、この資朝のひとりを、こんな風に、時人じじんの聞き書きとして随筆している。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兼好法師けんこうほうしの「徒然草つれづれぐさ」には、謡曲鉢ノ木の最明寺時頼が、旅すがら、足利家にも立ち寄っていたことが見える。夜物語りの酒のあとで、時頼が土地の織物について訊ねたりしている。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは分厚い一トたばにもなる反古のかさだったので、ふたりしてこれを整理翻読ほんどくしたすえ、帖に編集したものが、すなわち後世に長く読みつたえられてきた古典「徒然草つれづれぐさ」になったのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)