たん)” の例文
旧字:
室内せきとして声無し。窓の外に死のヴァイオリンをたんじつつ過ぎ行くを見る。その跡にきて主人の母き、娘き、それに引添いて主人しゅじんに似たる影く。
ゴオテイエが娘の支那シナは既に云ひぬ。José Maria de Heredia が日本もまた別乾坤べつけんこんなり。簾裡れんりの美人琵琶びはたんじて鉄衣の勇士のきたるを待つ。景情もとより日本ならざるに非ず。
死は物を呼び寄するが如きおとをヴァイオリンにてたんいだす。この時死は寝室の扉のかたわら、舞台の前のかた、右手に立ちおり、主人は左手壁のかた、薄暗き処に立ちおる。右手の扉を開きて主人の母きたる。
死は主人の煩悶はんもんを省みず、古民謡の旋律をたんいだす。娘一人、しずかに歩みる、派手なる模様あるあっさりとしたる上着を着、ひもを十字に結びたる靴を穿き、帽子を着ず、くび周囲まわりにヴェエルをまとえり。