弦音つるおと)” の例文
すると、ふいに、気持のいい弦音つるおととともに、ひゅッ、と矢羽根の空を切る音がし、庭の樹のこずえあたりで、すさまじい鳥の悲鳴が起こった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とうなりながら、むね弦音つるおとを鳴らせ、口もきかずにうでばかりさすっているようすは、はたからみてもなんとも気のどくらしかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヒューッ、ヒューッと弦音つるおと高く的を目掛けて切って放す。弦返りの音も冴えかえり、当たった時には赤旗が揚がる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一日弓を彎いた弦音つるおと以てのほか響いてかたわらにあった姙婦を驚かせ流産せしめ、その夫の梵士怒って、爾今じこん、羅摩、庸人ようじんになれと詛う。それより羅摩生来の神智を喪う。
彼は蹶張けっちょうを得意とし、熊や虎やひょうが、その弦音つるおとに応じてたおれた。蹶張というのは片足で弓を踏ん張って射るのである。そのやじりをあらためると、皆その獣のむねをつらぬいていた。
と、闇黒の奥で弦音つるおと、とたんに矢風、藤吉とっさに泥に寝た。間一髪、矢は傍の小石を散らしてかちりと鳴る。呼吸を潜めた藤吉の前へ、首尾を案じて男の影が、弓を片手に現れた。
それに答えるように、弦音つるおとや矢うなりが、四方に起った。煙を縫い、焔をかすめて、赤々と見える人影に、矢が飛んでくる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦音つるおと高く射出す征矢、呻りをなして飛んで来るが、たかが山窩の手練である、身近に逼るものはない。ただし将監が射出したなら、相当危険といわざるを得まい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しばらく息をこめて、空をにらんでいるうちに、一列の雁行が真上にかかるや、関興は、弦音つるおとたかく一を放った。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驚き周章あわてた大勢の声が、ひとしきり背後で聞こえたかと思うと、すぐに弦音つるおとが高く響いた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
行々子よしきりの啼き声がハタとやんだのをみると、その前方には高麗川のわかれが、道をさえぎっていたのだろう。弓の弦音つるおとだけがビンビンと澄んだ大気に鳴り出していた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途端に烈しい弦音つるおとがした。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、あきらかな弦音つるおとが、ややおくれて聞え、すぐ三の矢、四の矢の矢光りが、彼の姿を呑んだ灌木帯かんぼくたいを目がけてシュルシュル鳴ったのを見ても、それはほぼ確かなことといっていい。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦音つるおととともに、馬超は馬の背に屈みこんだので、矢はぴゅんと、それていった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弦音つるおとをそろえて、そこから対岸の敵へ、猛烈に射返した。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこかで弦音つるおとがした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)