弊履へいり)” の例文
しかも、その娘は因果物師いんがものしに売り飛ばされ、あまつさえ、彼女はそんな乞食同然の男にすら、弊履へいりの如く捨てられてしまったのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜泣きの刀、乾雲丸の取り戻し方を思いとどまってくれ……というお艶のことばは、さながら弊履へいりてよとすすめるにひとしい口ぶりだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
長年顔の飾りを勤めていたものを、白くなったからといって、弊履へいりを捨てるように落すのは人情にそむく。何うだね? 君は然う思わないか?
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうして彼は此の時から熱心な夫人の崇拝者となり、此の女の隠れた味方となって、則重に対する忠誠を弊履へいりの如く捨てゝしまったのである。
そのために大衆小説は歌舞伎劇のような惰性的生命をもち得ないで、大衆の実質的興味が衰えるとともに弊履へいりのようにすてておしまれないだろうという点だ。
昭和四年の文壇の概観 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
元来栄達に志す人ではなかったから、位にいた後、種々の善政を布き、良法を設けて、市民の信頼に報いわり、直ちに位をつること弊履へいりの如くであった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
ましてあさ子の身になってみれば、どんなにか悲しいことであろう。生れもつかぬ盲目めくらにされた上、弊履へいりのごとく捨てられては、立つ瀬も浮ぶ瀬もあったものではない。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
噂をして誤りなく、又私の推察が正しければ、この二人は、場合によっては名誉も権勢も生命も弊履へいりのように棄てようという恋を争ったというのだから、実に悲惨である。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
父は私を道具に使った揚句あげく、彼らから私は弊履へいりごとく捨てられ、踏まれ、蹴られたのである。
、何で弊履へいりのごとく捨てられようか。武門とはこうしたものだ。見よ、おれのさいご
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして利用するだけ利用して最早もはや使い手がないとなると弊履へいりの如く棄ててかえりみないところに、彼の腕前のスゴサが常に発揮されて行くのである。嘗て筆者は彼からコンナ話を聞いた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
老病死の解決を叫んで王者の尊を弊履へいりのごとくに捨てられた大聖釈尊しゃくそんは、そのとき年三十と聞いたけれど、今の世は老者なお青年を夢みて、老なる問題はどこのすみにも問題になっていない。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一千万円の遺産を、夫人は弊履へいりの如く棄てようというのです。
小宮君が不在でも、日本橋くんだりまで引っ張り出した以上は行動を共にするのが当り前だ。電話をかけさせなかった責任も感じないで、弊履へいりを棄てるようにして後も振り向かない。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
頼朝の不信は責めたが、卒然と何か悟って、中国七州を弊履へいりのごとく捨ててしまい、先ごろから高野こうやへ入って出家しているそうじゃ……。何といさぎよい、侍らしいやり口ではないか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結果一時、健康を害して重患に悩んだにもかかわらず、たゆまず屈せず、ついに一旦その目的を達したのであるが、夫人の死後、如何いかなる故か、折角の大研究を弊履へいりの如く捨てて顧みなくなった。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
だが、その恋を弊履へいりの如く打棄て、百万長者畑柳にかたづいた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)