幼馴染をさななじみ)” の例文
……玄關番げんくわんばんからわたしには幼馴染をさななじみつてもいゝかきした飛石とびいしづたひに、うしろきに、そではそのまゝ、蓑蟲みのむしみのおもひがしたのであつた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
久し振りで逢つた幼馴染をさななじみの私は、自分の廻らない智惠も忘れて、ツイ意見がましい事も申したわけでございます
そそけく果敢ない逢瀬が身に染みて忘れられぬのは、幼馴染をさななじみといふ強い糸に操られてゐるのであらうか。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
自分と同い年で、しかも五人子持——あれが幼馴染をさななじみのお妻であつたかしらん、と時々立止つて嘆息した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
娘であつたおいと幼馴染をさななじみの恋人のおいとはこの世にはもう生きてゐないのだ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
八百屋お七の幼馴染をさななじみで、後に眞志屋祖先のもとに嫁した島の事は海録に見えてゐる。お七が袱紗を縫つて島に贈つたのは、島がお屋敷奉公に出る時の餞別せんべつであつたと云ふことも、同書に見えてゐる。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
幼馴染をさななじみ浪漫的ロマンチツク——優しい虫の音は続いて聞えた——
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十六の少年の果敢はかない戀、幼馴染をさななじみではあるが、今は人妻になつて居る、お仙にかゝる、恐ろしい疑ひを掻き消すために、窓の下の女下駄の足跡を消したり
何を隠さう——丑松が今指して行く塚窪の家には、幼馴染をさななじみかたづいて居る。お妻といふのが其女の名である。お妻の生家さとは姫子沢に在つて、林檎畠一つへだてゝ、丑松の家の隣に住んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その上彦太郎とお袖は幼馴染をさななじみで、今でも清らかな逢引を續けてゐると知つて、腐肉ふにくのやうな色餓鬼いろがきの市十郎は、彦太郎の清純さが憎くてたまらず、無智の狂信者をだましてゐる
楽しい思想かんがへは来て、いつの間にか、丑松の胸の中に宿つたのである。昔、昔、少年の丑松があの幼馴染をさななじみのお妻と一緒に遊んだのはこゝだ。互に人目をぢらつて、輝く若葉の蔭に隠れたのは爰だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)