常春藤きづた)” の例文
そして窓のついてゐる家の壁一面に常春藤きづたか何かの蔓類の植物が生ひ茂つて、ぎつしり絡みついてゐる爲め、窓は一層小さくなつてゐる。
常春藤きづたむらがった塀の上には、火の光もささない彼の家が、ひっそりと星空にそびえている。すると陳の心には、急に悲しさがこみ上げて来た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
窓の沢山ある宏荘な宮殿をもったまちもなければ、邸内や、瀑布の轟きや絶え間なき水しぶきの中に生い茂る絵のような樹木や常春藤きづたもなく
これに反してお庭の隅の常春藤きづたに蔽われたバンガロー風の小舎には燈火ともしびがアカアカとともって、しきりに人影が動いている。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
陰氣な街々にはまだ白い布が張り𢌞され、その布の上には常春藤きづたや、柊や、冬の簇葉むらはや、花なぞが剌されてあつた。
常春藤きづたが木の梢からのび上って見上げようとし、ところどころに咲く白百合は、キラキラ輝きながら手招きをする。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
喧しく言ひ爭つて、やれ柊人形、やれ常春藤きづた人形と、夫婦して自分の方に花を持たせようと言い張りあふ。骰子と骨牌の遊びは給仕頭の懷中を肥らせる。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
その城壘じやうるゐたりしと寺觀たりしとを知らず。今の街道はその廣間を貫きて通ぜり。かたへなる細徑を下れば、小房の蜂窠ほうくわの如きありて、常春藤きづた石長生はこねさうとは其壁を掩ひ盡せり。
居間からは洋琴ピアノの音が洩れたりレコードが奏でられたり、そして昼は庭の常春藤きづたの陰に卓子テーブルしつらえさせて、そこで食事を取っていたようであったが、かれこれちょうど二
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが窻は日向のかべの鍵の手を常春藤きづたもみでて照りかへしつつ 書斎
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
常春藤きづたの冠をあみだにかぶり
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
常春藤きづたの葉5・27(夕)
それは言うまでもなく空色の部屋で、長椅子と橢円形のテーブルと、常春藤きづたをからませた衝立まで具わっていた。
が、ともかくもその姿が、女でない事だけは確かである。陳は思わず塀の常春藤きづたつかんで、倒れかかる体を支えながら、苦しそうに切れ切れな声を洩らした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
石は私の足の下から轉げ落ち、掴んだ常春藤きづたの枝は切れ、赤ン坊は恐ろしがつて私の首にすがりついて危く私をめ殺しさうになるのです。やつと頂上に來ました。
その一翼は明かに極めて古い時代のもので、どつしりした石の圓柱を持つた弓形張出窓には常春藤きづたが這ひ纏はり、葉の茂みの間で小さな菱形の窓硝子が月影に煌めいた。
とある宏壮なる邸の奥深くへとかつぎ入れられたのであったが、常春藤きづたの絡み付いた穹窿アーチ形の門、そして橄欖や糸杉のそびえた並樹、芳香馥郁ふくいくとして万花繚乱たる花園の中を通り抜けて
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わが窻は日向のかべの鍵の手を常春藤きづたもみでて照りかへしつつ書齋
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
涯しもなく頭上はるかに巍々と聳え立つ巌を仰ぎ見ることもなければ、葡萄蔓や常春藤きづたや、数知れぬ野薔薇のからみついた重畳たる拱梁アーチもなく、その拱梁アーチの間から
晩餐が報ぜられて間もなくわたし達の着いた饗應の室は樫材で造られてゐて、鏡板は蝋で光澤をだし、周圍の壁には家族の肖像が掛けてあつて、柊と常春藤きづたで飾られゐた。
それは彼の家の煉瓦塀れんがべいが、何歩か先に黒々と、現われて来たからばかりではない、その常春藤きづたおおわれた、古風な塀の見えるあたりに、忍びやかな靴の音が、突然聞え出したからである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
忍冬すいかずら常春藤きづたまとわり付いた穹窿アーチ形の門があり、門をくぐると、荒れ果ててはいたが、花の一杯に乱れ咲いた前庭があり、その前庭には赭熊百合しゃぐまぐさ白菖マートルや、薄荷はっか麝香草じゃこうそうや、薔薇ばらすみれ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
家はいずれもさまざまで大きなものではなかったが、富裕な貴族の別荘か山荘とでもいった風情に、忍冬すいかずら常春藤きづたまとわりついた穹窿アーチ形の門があり云々〉というところがありますでしょう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)