山村さんそん)” の例文
山村さんそんの小城にすぎない。しかし久しぶりに帰って来た主を迎えて、家中は城門に立って出迎えた。半兵衛は城へ入るとすぐ老臣にたずねた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
○此秋山にるゐしたる山村さんそん他国にもあるよしをきゝたれば、めづらしからねどしたしく見たるゆゑこゝにしるせり。
山村さんそんの農夫が一人ひとり、隣家の牝牛めうしを盗んだ為に三箇月の懲役に服することになつた。獄中の彼は別人のやうに神妙に一々獄則を守り、模範的囚人と呼ばれさへした。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
霧はもう名残もなくれて、澄みに澄んだ秋の山村さんそんの空には、物を温めるやうな朝日影が斜めに流れ渡つてゐた。村は朝とも昼ともつかぬやうに唯物静かであつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
服織はとりという二、三十山村さんそん、みな素朴そぼく山家者やまがものらしいので、その一けん伊勢いせ郷士ごうしといつわって宿やどをかりた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつかかみを落したのち、倉井村の地蔵堂じぞうどう堂守どうもりになっていたのである。伝吉は「冥助みょうじょのかたじけなさ」を感じた。倉井村と云えば長窪から五里に足りない山村さんそんである。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
○こゝにわが郡中ぐんちゆう山村さんそんに(不祥ふしやうのことなれば地名人名をはぶく)まづしき農夫のうふありけり、老母と妻と十三の女子七ツの男子あり。此農夫性質せいしつ篤実とくじつにしてよく母につかふ。
○こゝにわが郡中ぐんちゆう山村さんそんに(不祥ふしやうのことなれば地名人名をはぶく)まづしき農夫のうふありけり、老母と妻と十三の女子七ツの男子あり。此農夫性質せいしつ篤実とくじつにしてよく母につかふ。
山家の人のはなしに熊をころすこと二三疋、あるひはとしたる熊一疋を殺も、其山かならずあるる事あり、山家さんかの人これを熊あれといふ。このゆゑに山村さんそん農夫のうふもとめて熊をとる事なしといへり。
されども雪いまだきえざるゆゑしよくにたらず、をりふしは夜中人家じんかにちかより犬などとり、又人にかゝる事もあり、これ山村さんそんの事なり。里には人多きゆゑおそれてきたらざるにや。
古人の如く削氷けづりひを越後の山村さんそん賞味しやうみしたる事ちんとすべし奇とすべし。