しりぞ)” の例文
斉黄の輩の為さんとするところかくの如くなれば、燕王等手を袖にし息をしりぞくるもまた削奪罪責をまぬかれざらんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうかと思うと騶従すうじゅうしりぞけ、単騎独行山谷を跋渉ばっしょうし、魑魅魍魎ちみもうりょうを平らげたというから、その行動は縄墨をもっては、断じて計ることが出来なかったらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
安政大獄の序幕はそこから切って落とされた。彼はもとより首唱の罪で、きびしい譴責けんせきを受けた。しりぞけられ、すわらせられ、断わりなしに人と往来ゆききすることすら禁ぜられた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
陳は翌日詩を得て、ただちに咸宜観に来た。玄機は人をしりぞけて引見し、僮僕に客を謝することを命じた。玄機の書斎からはただかすかに低語の声が聞えるのみであった。初夜を過ぎて陳は辞し去った。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
肉の楽しみをきわめることをもって唯一の生活信条としていたこの老女怪は、後庭に房を連ねること数十、容姿端正たんせいな若者を集めて、この中にたし、その楽しみにけるにあたっては、親昵しんじつをもしりぞ
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
燕王ことばれんことをはかり、うわべしりぞけて通州つうしゅうに至らしめ、舟路しゅうろひそかに召してていに入る。道衍は北平ほくへい慶寿寺けいじゅじに在り、珙は燕府えんふに在り、燕王と三人、時々人をしりぞけて語る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)