ゆう)” の例文
歴史のタチバナは百果のゆうなるものと称えられて誰れも異論が無かったゆえに、これをモデルにその功労を思召して橘姓も賜わったのだ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
九度山くどやまの真田幸村などは、そのゆうなるものであろう。幸村へは平時においても、大坂城の秀頼から、すくなからぬ金力が密かに送られていたという。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近時発表された怪談劇のゆうなるものであるが、最後に小平次の姿を見せた方が好いか悪いかは種々の議論のある処で、あの合理不合理とを別問題として
怪談劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
赤線区域のオトクイ先のゆうなるものはアチラの兵隊サンと近ごろの相場はきまっている。戦争あってのパンパン稼業に再軍備反対をぶッても仕様がなかろう。
選挙殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
金大用きんたいよう中州ちゅうしゅうの旧家の子であった。ゆう太守のむすめで幼な名を庚娘こうじょうというのを夫人に迎えたが、綺麗きれいなうえに賢明であったから、夫婦の間もいたってむつましかった。
庚娘 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
実践的という言葉はいろいろの意味をもっているが、選挙運動なるものは、そのゆうなるものである。
ラフマニノフはおびただしい前奏曲を書いているが、この嬰ハ短調の悲劇的な前奏曲は、最も傑出し、かつ有名になっている。恐らく自作自演レコードのゆうなるものであろう。
鼎炉銚碗ていろちょうわんハ古キモマタ可ナリ新シキモマタ可ナリ。これソノ有スル所、イヤシクモゆうヲ誇リ奇ヲたたかわスノ意アレバ器物ニ役セラル。茶博士ニ陥ルニ非ザレバ必骨董こっとう者流ニ陥ラン。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
〈およそ女子の美を称うるは顔色を言う、すなわち艶はその光なり、美のゆうなるは、必ず光気ありて人を動かす、三字ついに後世美人を賦してようと為す〉とあれば飛び切りの代物だ。
さらに新人のゆうなるものは、道昭、智通、定慧じょうえなどの僧侶である。道昭は古い帰化人のすえであり、定慧は鎌足かまたりの子であるが、共に唐に入って玄弉三蔵げんじょうさんぞうに学び、当時の世界文化の絶頂をきわめて来た。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
南堂伯爵未亡人は、そのゆうなる者であった。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
老公は由来、幕府からまれておいでになる。老公の御事業おんじぎょうは、反幕的のゆうなるものと、幕府の学者はみな口をそろえて、将軍家へざんしている。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
およそ官能的な音楽のゆうなるもののように思われがちであるが、実際の音楽は、雄大瑰麗を極めているにしても、決して後世のある種の音楽のごとく、官能的に流れ過ぎるようなことはない。
そしてこの稀有けうな出来事を、一生のうちでもいまわしい見聞のゆうなるものとして、みな少しも早く記憶から消し去ろうとするものの如くであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
プランソン、ジュールネ、ヴァンニ=マルクー、ムラトール、カルヴェ、ヴァラン、——などはゆうなるものだが、わけても我らに取って、興味の深いのは、エドモン・クレーマンの存在である。
小次郎の父、良持などは、それの主人として、坂東八州のうちでも、ゆうなる者のひとりだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからここを主力とも、功名の主戦場とも見ず、ゆうなるものは、まず笠置の陣へむかっていた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その私情こそゆうなる罪であって、馬謖の犯した罪はむしろそれより軽い。けれど、惜しむべきほどな者なればこそ、なお断じて斬らなければならぬ。……まだ斬らんのか。何をしておる。早く、首を
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのゆうなる一例であったということができる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)